Research Abstract |
初年度で本研究の展開上重要となるMo,W,Re,Os,Ruの新錯体を10種合成した.このうち,6種の錯体の構造を結晶解析により決定した.Mo,Wでは,六座配位子,N,N,N',N'-tetra(2-pyridylmethyl)ethylenediamineおよびそのpropylenediamine誘導体を持つV価のdi(μ-O)型複核錯体を合成し,その構造を決めた.その酸化還元反応は,(IV,IV)までの一電子二過程が観測された.Re,Osでは,それぞれIII価およびIV価のμ-O型単架橋錯体を合成した.[Cl_3(py)_2Os(μ-O)Os(py)_2Cl_2-(CH_3COO)](1),[Cl_3(py)_2Os(μ-O)Os(py)_2Cl_2(CH_3COO)]^-(1r),[(CH_3COO)Cl_2(py)_2Os(μ-O)Os(py)_2-Cl_2(CH_3COO)](2),[(L)_2ClRe(μ-O)ReCl(L)_2]^<2+>((L)_2=tpa(3);(bpy)_2(4);(phen)_2(5))(py=pyridine;tpa=tris(pyridylmethyl)amine;bpy=2,2'-bipyridine;phen=1,10-phenanthroline).1,1r,2,5についてX線結晶構造解析を行った.1rは1の一電子還元体であり見かけ上のOsの酸化数は+3.5で混合原子価錯体である.Re(III)は,強固な金属間4重結合を持つ複核錯体を与えることで有名であり,直接の金属間結合を持たない錯体が安定に得られた点は注目される.この直線型構造はd^4電子配置の金属イオンにかなり一般的なものの様である.なお,Re(IV)のtpa錯体,[Re_2(μ-O)_2(tpa)_2]^<4+>,も合成出来たが,この錯体は金属間3重結合を持っている.Os錯体は2電子の,またRe錯体は3電子以上の可逆な酸化還元系であり,類似の他の金属イオンの錯体に比べても優れた酸化還元系であることが明かとなった.これらを基本構造として,より多くの電子を出し入れできる系に誘導できる可能性は十分にある.Ru錯体では(μ-O)(μ-CH_3COO)_2型の複核錯体をあらたに数種合成した.この型の錯体では,オキソ架橋へのプロトン付加とカップルした可逆的な酸化還元反応が特筆される.イミダゾールの様なプロトンを持つ配位子の錯体では分子内プロトン移動も観測された.
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