1994 Fiscal Year Annual Research Report
日本悉曇学の系譜に関する基礎研究-空海・円仁・安然-
Project/Area Number |
05451092
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Research Institution | The Unlversity of Tokyo |
Principal Investigator |
竹内 信夫 東京大学, 教養学部, 教授 (00107525)
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Keywords | 円仁 / 悉曇 / 入唐求法巡禮行記 / 在唐記 / 密教 / 安然 / 日本シッダン学 / 悉曇蔵 |
Research Abstract |
本年度の研究目標は9世紀初頭のシッダンをめぐる文化状況を円仁の『入唐求法巡禮行記』を通じて分析することであった.また、併せて、それが安然の『悉曇蔵』の体系にどのように組み込まれたかを考察することであった. 第一の点に関しては、円仁の揚州と長安の滞在中に行われた悉曇学習の実態を、『入唐求法巡禮行記』と将来典籍類(特に「承知五年目録」と「新求聖教目録」)とを比較対照させることで従来知られていたよりも精密に推定することができた。それとともに、目録から推測される円仁の梵字資料に対する強い関心が金剛界密教体系に対する関心と関連していること、また正確な音韻への強い希求に基づいていたことも明らかになった。 上記の推測を具体的に検証するための一つの手がかりとして、「在唐記」の名で伝承されている史料の検討を行った。特に、石山寺蔵「薫聖教」中に見出される「圓仁記」の奥書のある「悉曇字母」の詳細な検討を行った。(この史料は従来古代における日本語音韻復元の資料としてもっぱら使われてきた)。その結果、円仁の悉曇音韻(所謂「天竺音」)に対する認識と理解がきわめて正確であり、その音韻論的体系性(パ-二ニがその文法記述の基礎としたサンスクリット音韻体系)を十分に把握していたことが推測された。 第二の点に関しては、やはり上記石山寺の「薫聖教」中に含まれる「人々梵字」の写本が『悉曇蔵』巻五の東寺観智院写本の巻尾に付記される内容と同一であることから、円仁の悉曇音学習が『悉曇蔵』における「字母翻音」の基礎であったことが判った。しかし、安然の『悉曇蔵』体系において上述した音韻論的体系性が有効に機能していないらしいことも判明した。 上述した研究成果は今年度中に論文の形で発表する予定である。
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[Publications] 竹内信夫: "「八曼茶羅経」サンスクリット写本(空海書写)の解読" 比較文化研究(東京大学教養学部). 第32輯. 1-90 (1994)
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[Publications] 竹内信夫: "弘仁のモダニズムまたは飛白と梵字の協奏-空海筆「真言七祖像」僧名について" 東京大学教養学部紀要. 第26号. 45-57 (1994)
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[Publications] 竹内信夫: "円仁の揚州と長安における悉曇学習" 比較分化研究(東京大学教養学部). (印刷中). (1995)