1994 Fiscal Year Annual Research Report
誘導ブリルアン散乱による音響型ソフトモードの励起と相転移ダイナミクスの研究
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05452034
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
木下 修一 大阪大学, 理学部, 助教授 (10112004)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
八木 駿郎 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (30002132)
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Keywords | 誘導ブリルアン散乱 / 非線形光学効果 / 強誘電性相転移 / ソフトモード |
Research Abstract |
本研究の目的は、誘導ブリルアン散乱という非線形光学効果を用いて、物質中にフォノンを直接励起し、相転移に果たすフォノンの役割を明らかにしていこうとするもので、今年度は、1)TGSeの準縦波フォノンの相転移点前後での振る舞いの測定、2)フェムト秒誘導光散乱測定システムの開発、3)非線形光学過程である誘導光散乱と線形な測定である通常の光散乱の測定とその直接比較、4)揺らぎに対するDebyeモデルの破れの時間領域からの検証、の4点について研究した。その結果を以下に示す。 1)TGSeはTc=22℃で常誘電相から強誘電相に相転移する結晶であるが、高温相では反転対称性があるため、電気分極と弾性歪みとはピエゾ結合できないが、低温相では反転対称性が崩れるため、結合することができる。この結合のため、低温相では準縦波フォノンC_<33>は分極揺らぎを受け、音速に異常を与える。このとき、分極揺らぎの周波数特性が温度依存性を示すため、観測するフォノンの振動数により、音速異常を与える温度が変化する。このことを用いると、音速の変化から分極揺らぎの情報をとらえることができる。しかしながら、これまでの測定では光散乱法(10GHz)、超音波法(10MHz)と振動数の開きが大きく、その機構を確認する実験が待たれていた。今回、初めて中間的な振動数領域での測定(450MHz)ができ、上で述べた機構の正しいことを実験的に確かめることができた。この実験は誘導ブリルアン散乱法が、時間領域でしかも非線形光学過程を用いていることの利点を示す良い証明である。 2)誘導ブリルアン散乱法で励起できるフォノンの振動数は励起するパルスの時間幅で決まるため、より広い振動数領域をカバーするためフェムト秒での測定システムを作った。光学系は2つ製作した。一つは光カータイプでもう一つは4光波混合タイプである。これにより、THz領域でのフォノンの励起が可能になった。このシステムを用い、以下の3)、4)の実験を行った。 3)非共鳴条件での光カー効果と光散乱スペクトルは揺動散逸定理で結びついているが、これを実験的に証明した例はこれまでなかった。本研究では高分解能の時間・周波数領域での測定を行い、両者が完全に一致することを初めて証明した。これにより、誘導光散乱法で得られたデータと従来までの光散乱法で得られたデータを直接比較することが可能になった。 4)構造相転移は大きく分け、秩序無秩序型と変位型の2つの機構に分けられる。このうち、秩序無秩序型はソフト化する揺らぎの存在を考えるが、この揺らぎを説明するモデルとして、Debyeモデルがしばしば用いられる。このモデルには、モーメント総和則を満足しないなどの理論的な欠陥があり、時間の短い領域や広い周波数領域を問題とするときには適切ではない。このDebyeモデルからの破れは、時間領域での測定では、応答関数の原点付近の立ち上がりの存在としてはっきりと現れるため、誘導光散乱の方法で調べることができる。典型的な揺らぎモード持つと思われる液体について測定を行った結果、いずれの液体でもDebyeモデルの破れを観測することができた。この結果は、特に広い振動数領域を扱うガラス転移の機構の解釈に大きな影響を及ぼすものと考えられる。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] S.Kinoshita: "Extremely early stage of ferroelastic domain formation observed by laser refraction" Phys.Rev.B50. 5834-5837 (1994)
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[Publications] S.Kinoshita: "Direct Comparison of femtosecond Fourier-transform Raman spectrum with spontaneoas light scattering spectrum" Chem.Phys.Lett.(印刷中).
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[Publications] Y.Kai: "Direct Comparison between femtosecond optical Kerr and high-reso lution light scatteiing measurements" J.Mol.Lig.(印刷中).