Research Abstract |
色素体の形質転換に関与する因子として,光は以前から研究されてきたが,植物ホルモンの関与についてはほとんど研究されていない。本年度はイネの培養細胞系を用いて,色素体の微細構造的形質転換に注目しながら,それに関与する植物ホルモンの効果を検討した。 1ppmの2,4-Dを加えた培地上で,暗所で,イネ胚からカルスを誘導した。カルス細胞中の色素体は直径約1μmで,電子密度の高い基質を含み,無構造的なプロプラスチドであった。これらのカルス細胞は,カイネチン1ppm,NAA1ppmを含む培地,あるいはカイネチン1ppmのみを含む培地上で,23℃,明所で培養すると約2週間で緑化した。このプロプラスチドから葉緑体への構造分化の過程を電子顕微鏡で観察すると,ラメラ系の増加と平行して,プラスト顆粒の増大がみられた。またストロマ中にはファイトフェリチンの微粒子が集団として存在した。対照系として,カイネチンを与え,暗所で培養すると,色素体中のチラコイドは小胞化して鎖状配列をとった。しかし,プロラメラボディは存在しなかった。 つぎに,緑化したカルス細胞をNAAのみを加えた培地上で,暗所で培養すると,色素体は脱分化して急速にプロプラスチド化した。このほか,ABAと2,4-Dを加えた培地上で,明所で培養しても葉緑体は脱分化してプロプラスチドへ転換した。他方,カイネチンを与え暗所培養すると,葉緑体の脱分化は極めてゆっくりした変化で,しかも色素体中には,鎖状チラコイドが存在した。
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