Research Abstract |
原因不明の特発性間質性肺炎(IIP)を始めとする多くの間質性肺疾患の病因は未だ十分に解明されていないが,近年の分子生物学の発展に伴い,その病態は次第に明らかにされてきている.この中で,間質性肺疾患の病勢に並行して血清lactate dehydrogenase(LDH)活性が上昇することが知られているが,この機序について詳細は未だ不明である.LDHはM(A)およびH(B)サブユニットの結合よりなる4量体で5分画のisozymeが存在するが,間質性肺炎で上昇するLDHは主にH3M1(B3A1)よりなるLDH2である.本研究はIIPにおけるLDH2の増加が肺組織を構成する細胞(肺上皮細胞,線維芽細胞など)のうち何れの細胞から,いかなる機序で引き起こされるのかを,LDHAおよびB遺伝子の発現レベルで比較検討し,細胞および分子レベルでの機序の解明を図ることを目的とするものである. 本研究に対する平成5年度および6年度科学研究費より,当初の計画に沿って設備・備品・試薬を購入し,研究を進めた.既に報告したように,平成5年度にはまずLDHAおよびLDHB遺伝子のcDNAクローニングを行った.すなわちGenBankデータベースに登録されているLDHAおよびB遺伝子のmRNA(cDNA)の塩基配列を,日立社のDNASISプログラムを用いて検出し,それを元にA,BそれぞれのcDNA全体をカバーするオリゴヌクレオチドプライマー対を作成した.さらに,ヒト由来の肺線維芽細胞WI-38および,ヒト単核球よりmRNAを抽出し,これらを元に逆転写酵素によりcDNAに変換し,これを鋳型としてそれぞれのプライマー対を用いてpolymerase chain reaction(PCR)にて増幅した.さらに,これらcDNAをpBluescriptIISK+プラスミド内にサブクローニングした.得られたcDNA片の長さはLDHA 1.6kb,LDHB 1.3kbで,BamHI,XhoIなどの制限酵素による切断片の長さ,およびシークエンス反応による塩基配列からLDHAおよびBであることを確認した.平成6年度には肺由来の培養線維芽細胞,肺胞上皮細胞などにおけるLDHAおよびB遺伝子の発現の検討を進めた.すなわち疾患において低酸素刺激や各種の炎症刺激の標的となる肺胞上皮細胞,線維芽細胞などの肺実質細胞について,モデルとしてそれぞれの形質を有する培養細胞を用いin vitroで実験を計画し進行させた.これらの細胞に対し様々な刺激(PMA,IL-1β,TNF-αなど)を加えた条件での総細胞RNAを抽出し,LDHAおよびB遺伝子の発現量の変化をmRNAレベルで検討中である.現在研究はon goingであり,今後さらにこのmRNAレベルの検討を継続すると共に,(1)LDHAあるいはB遺伝子が特異的刺激で発現レベルが制御される場合,この制御が遺伝子の転写レベルで行われるのか,あるいは転写後のレベルで制御されるのか否かを検討する.(2)実際の病変の場におけるLDH産生細胞を検討するため,IIP患者より肺の生検ないし剖検にて得られた組織標本を用いて,in situハイブリダイゼイション法にて,LDHAおよびB発現細胞の同定と発現のレベルの質的・量的解析を行う予定で,研究計画を検討中である.
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