1993 Fiscal Year Annual Research Report
アリストテレスのポイエーシス論-自然の時間と悲劇の時間-
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05610001
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
篠澤 和久 東北大学, 文学部, 助手 (20211956)
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Keywords | 時間 / ゼノンのパラドクス / 自然 / 運動 / エネルゲイア |
Research Abstract |
本年度は、『自然学』における時間、つまり、<自然における時間>を考察した。主たる対象としては、運動に関するゼノンのパラドクス(運動論駁)を扱った。(なお、この成果の一部はすでに日本哲学会大会において口頭発表され、さらに「「ゼノンの逆理」とアリストテレス」と題して『哲学』(日本哲学会編)に掲載される予定である。)その成果は以下のように要約できる。 ゼノンは運動の存在を論駁する議論を提示する。そしてアリストテレスはその議論への反論を試みる。その最終的議論において援用されるのが、可能態(デュナミス)-現実態(エネルゲイア)という対概念であるが、それと密接に関わってくるのが<時間>の問題である。従来の解釈では、パラドクスと時間との関係が的確には捉えれていなかったように思われる。この点を補うべく、論文では、ゼノンのパラドクスに対するアリストテレスの応接において時間の捉え方がどのように推移・転換していくかを追跡した。そこから浮かび上がってきたのは、われわれの日常的な時間表現に見られる二重構造である。すなわち、「いま・・・している」といった、パラドクスで問題となる表現で使用される<今>には、じつは、<今日><今月><今年>のように、自然的・秩序的な円環構造をもった時間がパラメーターとして作動しているのである。われわれがゼノンのパラドクスに陥るのも、こうした自然的な--と同時<人間>のあり方を深部で規定してもいる--時間への配慮を見失うからにほかならないと考えられる。
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