1993 Fiscal Year Annual Research Report
1980年代ドイツ民主共和国におけるプロテスタント教会と国家の関係
Project/Area Number |
05610028
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
田中 純一 筑波大学, 現代語・現代文化学系, 講師 (50143152)
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Keywords | 現代ヨーロッパ宗教的状況 / ドイツ・プロテスタンティズム / 世俗化現象 / Neu-Evangelisierung / Volkskirche |
Research Abstract |
いわば逆方向から東独プロテスタント教会が果たした役割を歴史的、神学的に吟味する視角を提示するべく、いわゆる「ベルリンの壁」以後のヨーロッパ・キリスト教の状況について分析を試みた(「現代ヨーロッパ宗教的状況(1)」印刷中)。それによってとりあえず以下の点があきらかになった。現代ヨーロッパにおいては、第一にドイツ統一が生み出した状況、第二に旧ユーゴスラヴィアにおける民族紛争が生み出した状況、第三にエルベ河以東とバルカン半島のすべての社会主義体制国家の崩壊が生み出した状況が存在する。この三つの政治的、社会的状況は、それぞれ背後でプロテスタント的ヨーロッパ理念、正教的ヨーロッパ理念、ローマ・カトリック的ヨーロッパ理念に深く関係している。すなわち旧東独における教会と国家のお互いのアイデンティティをかけた対抗の歴史に刺激されて、「教会と国家」という重要な問題が、むろん中世そのままのかたちではなく、ポスト・モダンにおける両者の関係を模索することを含みながら、ヨーロッパ現代社会の先端にふたたび姿をあらわしたのである。 92年春、旧東独国家保安省(秘密政治警察)文書の個人閲覧が始まったことにより、すさまじい密告社会の実態があきらかにされつつある。それとの関連で東独プロテスタント教会指導部の有力な複数の公職者が、教会的、人道的案件のためとはいえ、積極的に国家保安機関(Staatssicher heitsdienst)との実際的、政治的関係をもっていたことがあかるみに出た。したがって「社会転換の助産婦」としての重要な役割の解明とは別に、教会と国家の確執の複雑な過程のなかで結果的に東独のプロテスタント教会が国家保安機関(略称シュタージ)と一定の協力関係にあったことは、東独プロテスタント教会の影の部分として、本研究があらたに究明しなければならない課題である。
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