1994 Fiscal Year Annual Research Report
1980年代ドイツ民主共和国におけるプロテスタント教会と国家の関係
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05610028
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
田中 純一 筑波大学, 現代語・現代文化学系, 講師 (50143152)
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Keywords | 現代ヨーロッパ宗教的状況 / ドイツ・プロテスタンティズム / 教会と国家 / Stasi / ドイツ統一 / ドイツ民主共和国 |
Research Abstract |
東独のプロテスタント教会は、ドイツ統一を生み出した状況に深く関わりをもつだけでなく、ドイツ統一が生み出した状況にも重要な影響を与えている。そのひとつが、ドイツ・プロテスタンティズムとドイツ統一の問題である。統一ドイツの宗派分布は、ほぼプロテスタント信徒七十%に対してカトリック信徒三十%となる。旧西独では両宗派の信徒数はほぼ拮抗していたが、旧東独ではプロテスタント信徒の数が圧倒的に優勢であったためそうなった。少なくとも宗派分布の上からは、統一ドイツは再び強力なプロテスタント国家に回帰したといえるのである。それは、一般にドイツ的なものの伝統への回帰を刺激する側面があるのではないか。ヨーロッパにおけるカトリック優位の反作用として、プロテスタント教会が、ドイツ社会の求心力を強める存在として浮上してくるのではないか。この点を現代ヨーロッパの文脈のなかで分析した(「現代ヨーロッパの宗教的状況(2)」発表予定)。 92年春、シュタ-ジ(旧東独秘密警察)文書の個人閲覧が始まったことにより、すさまじい密告社会の実態があきらかになった。東独プロテスタント協会内部にも多数のIM(シュタ-ジ非公式協力員)が存在した。さらに東独プロテスタント教会指導部は、教会的、人道的案件のためとはいえ、積極的にシュタ-ジとの実際的な関係をもっていた。教会は「悪魔との取り引き」を行ったと非難された。こうして、ドイツ社会の「平和革命」に対する評価は大きく変化する。「革命」はそもそも存在しなかった。SED政権は東独市民の力によってではなく、ソ連が東欧から手を引いたから倒れたのだ。血が一滴もながれなかったのは、東独市民が「平和」を愛好したからではなく、おとなしく権力者に服従する奴隷根性に支配されていたためだ。わけても旧東独市民たちの復讐心と憎悪は爆発し、IM狩りの嵐が吹き荒れる。にもかかわらず、東独プロテスタント教会が「社会転換の助産婦」であり、ひとつの独裁国家のなかに生きざるをえなかった人間たちに仕えたことが真実であるとすれば、それはなぜかをまとめた。
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Research Products
(1 results)