1994 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05610037
|
Research Institution | YAMANASHI UNIVERSITY |
Principal Investigator |
免取 慎一郎 山梨大学, 教育学部・哲学教室, 教授 (20020373)
|
Keywords | ミアスマ / カタルシス / エ-トス / ギリシア悲劇 / アイスキュロス / ソポクレス / エウリピデス |
Research Abstract |
1992年度及び1993〜4年度にわたって科学研究費補助金の交付を受けることができた「ミアスマのパトロギア」の研究の出発点は、前年度までの「古代ギリシアのエ-トスとCorpus Hippscraticum」の課題を継承して、『ヒポクラテス集成』と紀元前5世紀の歴史家トゥキュディデスの古典文献学的な方法による考察を通して浮び上がってきた、ミアスマmiasmaの観念への注目であった。汚染を意味するこのギリシア語の用いられるコンテクストはひんひ医学あるいは自然的・物質的な領域に限定されてはいない。それは宗教的・道徳的さらには法的な意味までの罪悪やタブ-の侵犯におよび、またそれらの結果として生ずる災厄にも重なっている。それは汚染からの浄めを意味するギリシア語katharsisカタルシスの多義性と通じているのである。ここムは癒し赦し、救い関わる、古代ギリシア社会のエ-トスの問題が存在している。 そのため本研究課題の考察の範囲は古代ギリシア世界全体に及ぶこととなり、研究領域も、医学・歴史・哲学文献の外まで広がる結果となった。また方法論的にも、文献学を越えて、宗教学ないし文化人類学的な視点を取り入れることが必要になった。しかし研究内容が拡散することを避けるため、対象を古代ギリシア悲劇に限定し、三大悲劇詩人の現存の作品に絞って考察することとした。 1993年度には、私のもっとも敬愛する詩人ソポクレスについて、ひととおりまとまりをつけることができた。本年度は、山梨大学教育学部研究報告に、「ミアスマのパトロギア-その3」を掲載し、エウリピデスについての考察の成果を発表した。またアイスキュロスの悲劇を主題とした「ミアスマのパトロギア-その4」を執筆した。1992年度の研究成果「ミアスマのパトロギア-その1」と合わせて、本年度末に、研究成果報告書を作成する。
|