1993 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05610043
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
篠原 資明 東京芸術大学, 美術学部, 講師 (60135499)
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Keywords | 未来派 / 速度 / メディア / 写真 / 電気 |
Research Abstract |
未来派は速度を礼讃したことで知られている。美学的には高速自動車の美しさを謳うことによって、また政治学的には戦争を美化することによって、未来派は、速度崇拝を徹底させようとした。未来派が登場する今世紀初頭は、自動車が速度を競うカーレースの登場を見た時期でもあった。また未来派登場後まもなくして始まる第一次世界大戦は、史上初めて航空機が活躍する戦争でもあった。このように速度が社会にその威力を示し出した頃、未来派は、写真というメディアをとおして、その速度を表現しようとした。すでにマレーやマッハによって運動の分析手段として用いられていた写真を、未来派は芸術的表現のために利用しようとしたのだが、その際、彼らが理論的にも鋭い考察の跡を示していることは、注目してよい。たとえば、写真におけるブラガーリア兄弟、絵画・彫刻におけるボッチオーニが、そうである。彼らの考察は、やがて航空写真の活用にまで進んでいく未来派の視覚芸術にとって、理論的にも実践的にもパラダイム的な役割を果たすはずだ。 写真というメディアと未来派との関係は、数多くのデータによって、まことに興味深い諸相を示すため、いまなお本研究も、その関係に重きを置いているが、未来派がその速度を称賛した電気もまた、メディア論的に重要であることは、論を待たない。電気メディアについても、未来派は美学的政治学的に、先駆的な考察を示している。この面での研究の充実を、さらに図っていきたい。
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