1993 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05610044
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
潮江 宏三 京都市立芸術大学, 美術学部, 助教授 (60046373)
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Keywords | エリザベス朝 / イギリス / ルネサンス / 芸術理論 / 美意識 / 古典主義 / 16世紀 / テューダー朝 |
Research Abstract |
すでにこれまでの研究でエリザベス朝ルネサンスの芸術理論において重要な文献であるヒリヤードの「リムニング芸術論」は、和訳し終えているが、それを出発点にすえながら、ルネサンスという以上、どのようにイタリアの芸術理論の影響が入ってきて消化されていたかをまずたどっていった。その結果、イタリア・ルネサンスでは再重要のアルベルティの著作のうち、建築論はどうやらそれを通して古代を理解するために読まれていたようだが、絵画論の方はむしろ登場して来ず、それはどうもデューラーの遠近法論や比例理論で代用されていたらしい。この事実は、北欧の国でネーデルランドに近い国としての、イギリスの特殊な位置を示しているといえるもので、この視点はエリザベス朝のルネサンス美術を考える上で重要なものとなる。思想家のディーは、このデューラーの比例理論を大宇宙と小宇宙の対応の原理を証明するものとしてまともに受けとめているが、実践家のヒリヤードは、こうした理論の重要性を強調しながらも、そのような原理を外れても美しいものはあると平気で逸脱している。イエーツは、ディーが特に建築の理論において、ヴィトルヴィウスにまで手を伸ばして、古代やイタリアの理論を支配層にではなく、中流の職人たちに教える努力をしたことを指摘しているが、ヒリヤードの知識もそれと関係していて、こうした知識の伝わり方にも特殊性が表れている。また、こうして受け入れられつつあった理論と実践との間にも、美術史的に見て大きな隔たりがあり、詳細は今後の研究に譲るとしても、それは、父のイタリア化政策を受け継がなかったヘンリー八世が、当代一の画家ホルバイインを宮廷にもちながらさして厚遇もせず、タピストリーやミニチュアを重んじたことのような趣味の意識の「偏り」とも結びついているものだろう。ベーコンら哲学者の論じる「美」についても、こうした視点は重要となるだろう。
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