Research Abstract |
本研究では,高構造刺激セットの学習後の再認実験において生ずる順序効果の発現要因として,構造特性と提示時間間隔の効果を検討した.実験において,例えば,学習刺激S1(細い頭,細い胴,上向きの両腕,開脚),学習刺激S2(細い頭,太い胴,下向きの両腕,閉脚)の人の線画を1刺激づつ提示し,記銘させる.これらの刺激は,胴と腕と脚の3属性の値を変換することによって相互に一致する.3属性のうち1属性あるいは2属性の値を変換した刺激は6刺激(生成刺激)あり,学習刺激間の変換(関連変換)によって学習刺激と関係づけられる.再認実験でOld/New判断を求めると,生成刺激に対するOld判断が30%程度生ずる.第1,第2刺激の学習後,第3学習刺激S3(細い頭,細い胴,上向きの両腕,閉脚)の学習後に再認実験を行うと,生成刺激のOld判断は増加する.ところが,第3学習刺激としてS3'(細い頭,細い胴,下向きの両腕,閉脚)を学習させる場合は,生成刺激のOld判断はあまり増加しない.このように,第3学習刺激の学習により,生成刺激のOld判断の増加量に差が生ずることを順序効果と呼ぶ.いま,第3,第2学習刺激,第3,第1学習刺激間の変換数は,S3の場合は2変換,1変換,S3'の場合は1変換,2変換である.この変換数の順序の逆転が順序効果の主要因であれば,第2学習刺激と第3学習刺激間の提示時間間隔(ISI)の変化は影響を持たないと考えられる.ISIが20秒と50秒の2条件を設けた実験の結果,いずれの場合にも順序効果が認められ,ISIによる差異は認められなかった.ところが,第2実験において再認刺激を2刺激ずつ提示する方法を採用したところ,順序効果が消失した.この場合もISIの効果は認められなかった.以上から,順序効果は,ISIではなく,学習刺激間の関係構造に依存することが明らかにされた.しかし,実験2で順序効果が消失する場合のあることが示されたので,順序効果を発現させる心理学機構の全体像を解明する必要がある.
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