1993 Fiscal Year Annual Research Report
手段的協力行動の理論:主観的・客観的構造変換による自発的相互規制に関する実験およびシミュレーション研究
Project/Area Number |
05610083
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山岸 俊男 北海道大学, 文学部, 教授 (80158089)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡部 幹 , 助手 (40241286)
篠塚 寛美 , 教授 (30000615)
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Keywords | 社会的ジレンマ / 実験ゲーム / 利得構造 / コミットメント / ネットワーク / 囚人のジレンマ / 信頼 |
Research Abstract |
本研究を含む山岸らによる一連の研究の一般的目的は、社会的ジレンマ解決のために集団成員が自らジレンマ状況の変革を行うにあたって発生する2次的ジレンマ問題に対する理論的解答を探索することにある。本研究ではこの一般的目的達成の一環として、1次的ジレンマにおける行動選択と2次的ジレンマにおける行動選択との間の「連動性」が、それぞれのレベルにおけるジレンマの利得構造を、囚人のジレンマ構造から信頼ゲーム構造へと変換する場合のあることに着目し、そこでの「連動性」そのものの発生原理の解明を進めることを直接の目的としている。本年度にはまず、集団内にランダムな2者関係が存在している状況から、成員間に相互コミットメントが発生していく過程で戦略的行動が可能となり、それにより長期的な利得構造の変換が生れる可能性を追及するために、シミュレーションと実験室実験が行われた。コンピュータ・シミュレーションでは、集団の中で相互選択により形成されたペアの間で囚人のジレンマ・ゲームを行う場合に、どのような原理により相手を選択し、その相手に対してどのような行動を選択するのが有利かが検討された。その結果、過去の付き合いで最も利益が大きかった相手を選択し、その相手との関係では必ず協力行動を選択するという戦略が最も大きな利益をあげることが明らかにされた。集団内で多くの成員がこのような戦略を採用すれば、そこでの個々の囚人のジレンマは長期的には信頼ゲームに変換されることになる。従ってこのシミュレーションの結果は、相手の選択が可能な状況では、個々の関係に囚人のジレンマの利得構造が存在しても、その構造は長期的な観点からは自発的に信頼ゲームの構造へと変換されることを示している。このようなコンピュータ・シミュレーションで得られた知見を確認し、その意味を十分に理解するために、本年度には第1実験が行われた。この実験では、利得構造の変換を導くコミットメント形成が、社会的不確実性の存在により強化されるという仮説も検討されている。実験の結果は仮説通り、社会的不確実性の高い場合に特にコミットメント形成が起こりやすいことが確認された。またこの実験では、他者に対する一般的信頼感の低い被験者の間で特にコミットメント形成が起こりやすいことが確認されている。なお現在、この実験結果の一般性を検証するための第2実験が進行中である。
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[Publications] 山岸俊男: "因果スキーマとしての異文化間コンフリクト" 現代のエスプリ-特集:地球社会時代を生き抜くには. 3月号. 27-34 (1993)
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[Publications] 山岸俊男: "利得構造の変換と規範の生成" 理論と方法. 13. 51-68 (1993)
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[Publications] David Karp,Nobuhito Jin,Toshio Yamagishi,Hiromi Shinotsuka: "Raising the minimum in the minimal group paradigm" The Japanese Journal of Experimental Social Psychology. 32. 231-240 (1993)
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[Publications] Toshio Yamagishi,Kanus Look: "Generalized exchange and social dilemmas" Social Psychology Quarterly. 56. 235-248 (1993)
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[Publications] 渡部幹,山岸俊男: "社会的ジレンマ状況における戦略選択の効果-4人集団を用いた実験的研究" 社会心理学研究. 9. 65-72 (1993)
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[Publications] 山岸俊男: "「社会心理学-個人と社会を結ぶもの」相場覚(編)『心理学入門』" 放送大学教育振興会, 8 (1993)
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[Publications] 山岸俊男: "「法と感情-社会心理学的視点」棚瀬孝雄(編)『現代社会と不法行為-法の理念と生活世界』" 有斐閣(印刷中),