1993 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05610138
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
筒井 清忠 京都大学, 文学部, 教授 (50121398)
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Keywords | 昭和文化 / 歴史社会学 / 教養主義 / 学歴エリート / 修養主義 / 大衆文化 / 高等教育 / ユース・カルチャー |
Research Abstract |
昭和文化の歴史社会学的研究として、とくに高等教育・出版文化を中心とした「教養」の問題の研究を行なった。各所に散在している教養主義に関わる資料文献の探索を行ない、多くの資料の所在を明らかにできたことはまず第一の成果といえるであろう。そして、こうした成果をもとにして発表されたのが論文「“教養"の歴史社会学的考察」である。ここでは次のようなことが明らかにされた。すなわち、1.日本の教養主義は新渡部稲造系統とケーベル系統の二つの系統が合流した形で、大正初期に形成されたこと。2.岩波書店の刊行物を主軸として旧制高等学校生徒の間にそれを主に広まっていった。3.大正後期からはマルクス主義の影響力が増大してきたため、それは一定程度の後退現象をみた。4.マルクス主義の影響力が後退した昭和十年代に河合栄治郎の『学生叢書』が刊行されるなどして教養主義は復活するとともに完成した。5.従って第二次大戦期は軍国主義の時代であったが、学歴エリートのユース・カルチャーとしては教養主義の全盛期の時代なのであった。6.終戦後、旧制高校が廃止されるなどのことがあったが、教養主義は新制大学の学生を中心としてユース・ハイ・カルチャーとして存統していった。7.昭和二十・三十年代には大きな影響力をもった教養主義も昭和四十年代から後退していくことになる。8.その原因は、この高度成長期に、大学生が急増し、そこに大量のエンターテイメント中心の大衆文化が流れこんできたからである。9.その意味では、今日教養主義は最も厳しい状況を迎えているといわねばならないであろう。しかし、文化を通しての人格の完成というその理念は失われてはならず、その再生の途がはかられるべきであろう。以上である。昭和文化を「教養」の問題を中心にして考察したはじめての本格的研究成果であり、その先駆的意義は大きいものがあると考える。次は、修養主義を中心とした大衆文化の考察も行ない、両者をあわせた昭和文化の歴史社会学の完成を期したい。
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Research Products
(1 results)