1993 Fiscal Year Annual Research Report
米国教科書行政システムの歴史的変容と発展構造に関する研究
Project/Area Number |
05610232
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Research Institution | Joetsu University of Education |
Principal Investigator |
古賀 一博 上越教育大学, 学校教育学部, 助教授 (70170214)
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Keywords | 教科書行政 / 教育内容行政 / 教科書制度史 |
Research Abstract |
本年度は、研究計画調書に記載した研究目的の中から、特に州集権型教科書行政システムの徹底的な究明を意図して、その典型であるカリフォルニア州教科書行政システム(1950年代から1960年代を中心とした)の史的変容過程と発展構造の事例的分析を試みた。 その結果、以下のような諸点を指摘することができる。 まず、1964年の「複数能力別」教科書の導入によって、それまで単一的な教科書の提供しかなかったカリフォルニア州教科書行政士、部分的とはいえ教科書の複数提供を可能にしたことは、州教科書の選択による「教育内容の多様化」への道を開いた点で極めて大きな意義をもつものであったといえる。加えて、単に教科書だけに限定されず、多数の補助教材を採択することにより、かかる指向性を補完しようとした取り組みも教育現場の多様な教材要求に応える視点からみた場合大きな前進であった。 次に、「複数能力別」教科書の導入に関する州議会承認の背景についてであるが、当時、多様な教育要求に応え得る方法として注目され、州議会でも審議の対象となっていた「複数教科書」採択制度の完全導入には、従来の教科書経費よりも多額の経費が予測され、その支出の増大に対して州議会関係者の同意を取り付けることは極めて困難であった。加えて、「同制度の導入は、市販教科書の大幅採用をもたらし、その結果、州教科書の印刷、刊行に多年たずさわってきた州印刷工場労働者たちの雇用を脅かすのではないのか」という危惧から州印刷局関係者の根強い反対も存在していた。このような「複数教科書」採択制度の導入をめぐる当時の反対状況を勘案すれば、「複数教科書」採択制度の変形体である「複数能力別」教科書の導入は、カリフォルニア州教科書行政上、当面、実現可能な範囲での「教育内容の多様化」要求に応える具体的方策であったと同時に、「複数教科書」採択制度をめぐる賛否両論側からみて、「妥協的産物」であったと位置づけられる。 最後に、州議会による「教科書関係予算の削減」という暴挙に対して、州教科書行政関係機関により展開された種々の柔軟な対応の結果、幾許かの補助教材が最終的に採択された点は、一定評価されようが、かかる州議会の干渉が、州教科書行政の発展と円滑な遂行上、極めて大きな阻害要因となったことは疑いもなく、この干渉防止策の構築が、カリフォルニア州教科書行政上、重要な解決課題として残されることとなった。
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Research Products
(2 results)