1994 Fiscal Year Annual Research Report
米国教科書行政システムの歴史的変容過程と発展構造に関する研究
Project/Area Number |
05610232
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Research Institution | Joetsu University of Education |
Principal Investigator |
古賀 一博 上越教育大学, 学校教育学部, 助教授 (70170214)
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Keywords | 教科書行政 / 教育内容行政 / 教科書制度史 |
Research Abstract |
本年度は、研究計画調書に記載した研究目的の中から、特に州集権的教科書行政システムの徹底的な究明を意図して、その典型であるカリフォルニア州教科書行政システムの展開過程を、現代教科書粉争(「自由の地」教科書粉争)の分析を通して明らかにした。その結果、以下のような諸点を指摘することができる。 まず、この教科書粉争は、「公民権運動の高揚」という当時全米を席巻していた時代的潮流の中で、その社会的要請に即応した教育内容を提供すべく採択された当該図書に対して、保守的政治団体から挑まれた攻撃に端を発したものであり、当該図書の採択阻止をねらう反公民権運動グループと州教科書行政機関との対立・闘争として位置づけられる。当該教科書の「愛国主義的及び反共産主義的思想や記述の欠落」と従来の歴史教科書では顧みられることの少なかった「民族的・文化的少数派の人々の歴史に光を当てた」斬新な内容が「忌々しき偏向」と見做され、攻撃者側の厳しい糾弾の的となっていた。また、次期教科書の採択期限との関係で、採択のための審査・選考に十分な時間が確保できなかったため、採択された当該教科書の内容自体が採択関係者からみても必ずしも満足のゆく状態ではなく、当該教科書の採択が改訂を前提とした「苦しい選択」の結果であったこと、さらにはその選出母体や過程からすれば当該図書の採択に当然反対票を投ずると目された州教育長自身が造反とも取れる支持票を投じたことが、かかる紛争を一層増幅させる誘因となっていった。 攻撃者側の戦略は、当該教科書の内容だけに止まらず、その著者や採択・改訂作業に関係した人々にもヒステリックな誹謗中傷の刃を向けることにより、広く州民の反『自由の地』感情を扇動するとともに、議会関係者への圧力を通し「教科書予算の凍結ないしは削減」といった不当手段によって、当該教科書の配本、使用を阻止しようとするものであったが、この手法は、1940年代に展開された『アメリカの構築』紛争、さらには1950年代における下院教科書調査委員会の活動などにおいて看取されたものとほぼ同様であったといえよう。
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Research Products
(2 results)