1995 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05610245
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 亜人 東京大学, 教養学部, 教授 (50012464)
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Keywords | 農業開発 / 社会変化 / 伝統文化 / 葛藤 / 統合 / 地域振興 / 家業 |
Research Abstract |
長崎県五島の上崎山地区およびその近接地域における農業開発に伴う村落内の葛藤・対立に関する最終的な補充調査を行ない、この地域における戦前から今日にいたる農業開発に伴う農業・流通・社会変化に関する資料に基づいてこの事例研究を総括した。国際的な自由化にともない韓国を初めとする外国産の生糸の輸入に伴って競争力を失った養蚕が下火となり、製糸企業の撤退により地域産業としての存立基盤は完全に失われている。かつて利害の対立関係にあったタバコ栽培はその後も比較的順調であり、また乳牛の多頭飼育も一時より好転しており、今日では作目間の利害はタバコ・畜産の二種目間で調整が行われている。その背景には、畜産農家およびタバコの乾燥施設の集落外への移転も水道の敷設によって順調に進んできたこともあげられる。その点では、70年代末から始まった県による作目別の団地化構想が成果をあげたと評価できる。一方でかつての養蚕農家の中には、桑園、繭生産から糸取り、草木による染色、手織り、和裁までの全ての過程を自分でおこなうユニークな農家が出現しており、地域婦人会や市の講習や各地での展示や指導にも応えて、婦人による地域振興活動の一つとして脚光を浴びている令があり、現地の資源を生かしながら付加価値の高い、伝統文化の再創造としても活動としても注目すべきものである。 千葉県北総地域の佐原においては前年度に引き続き家業の業種・業態間の利害や地域振興をめぐる参加のあり方、歴史・文化的伝統の認識と諸活動に関するキ-・インフォーマントからの集約的な聞き取り調査を行ない、その点については一応の成果を得ることができたが、住民間の調整と合意形成過程の実態調査は住民間の政治課題とも直結する問題であるため、短時日の調査は用意ではないことが分かった。
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