Research Abstract |
本研究は,近世における瀬戸内海諸地域を軸として,これに関連する周縁の地域において,生活の実態をどのように刺激を与え,活動的な生産性の発動を可能にする原動力を,諸分野にわたって確認し,その諸史(資)料を発掘しつつ検証を進めることを目的としている。 本年度の研究実施計画として立案した地域は,京坂=上方と密接に連結する瀬戸内海諸地域=関西・中国・四国・九州(北半部)であるが,研究推進過程において,上方の影響下にある北陸圏の重要度が急浮上してきたことが,重要な一視点として付加される。すなわち,富山県下における蘭方医の地域文化関係開発における貢献であり,豪農の農業進展の成果であり,京坂両地域の指導者との連携,さらには中京地域との友好的結び付きが明らかになり,今後の調査を新たに企画しなければならない。播州内陸地帯と長崎蘭学との関係は,幕末の国際関係を反映して,単に民生部門における医学・農学関係史料の購入研究度が一層充実する必要を増加しており,軍事学関係書の存在が認められている。 中国地方のうち,備前美作地域の藩医関係として,漢方医の種痘研修の実態が鮮明になりつつある。経営部門の活性化・立て直しとして,大阪の豪商の資本運用法の研究を,藩・商家ともに進め,また,安芸地方では,厳島神社神宮家においても,同様の姿勢を有し,京坂地域の書長事との交流を深めていることが明らかとなってきた。 北九州地方では,洋蘭学における長崎の位置は周知のところであるが,平戸藩主の科学指向は,翻訳書の原典の存在が逐次解明を進め,大分地域では,本草書(むしろ植物学)原典の導入過程の端緒の解明が期待できる。佐賀・秋月方面の種痘史料の発掘も進展中であり,延岡藩主の科学(とくに数学・物理学)研究の姿勢は,熊本藩主の開物学への傾倒ぶりと好対照のものであることが,新史料の発掘により,検証中である。 次年度では,上記諸地域の成果をさらに推進するとともに,九州南半部,四国地域の解明を行なう計画である。
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