1993 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本におけるドイツ文学の翻訳史にみる異文化間の相互干渉作用
Project/Area Number |
05610407
|
Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
高橋 輝暁 立教大学, 文学部, 教授 (60080420)
|
Keywords | 異文化受容 / 日独文化比較 / ドイツ文学の翻訳史 / 文化の翻訳 / 翻訳類型 / シラー / グリム童話 / 挿絵 |
Research Abstract |
1.シラーの『ヴイルヘルム・テル』は明治期だけでも7点の部分訳ないしは翻訳が明らかになっている。ところが当時の翻訳では、作品のタイトルすらその訳語が一定していない。原作は主人公の名前がそのまま作品名となっているので、現代の訳のようにそのまま“Wihelm Tell"の発音に似せて日本語化すれば済むはずだが、実際には作品の内容やテーマを示唆する標題に変更されている。それは、人名そのものが、当時の読者には耳なれていなかったためにと考えられ、作品タイトルの翻訳だけをみても、そこには翻訳の類型と日本の文化的西洋化との相互干渉作用の一端が窺われる。また、佐藤芝峰はこの作品を原作と同じ戯曲形式によって初めて日本語に完訳した。ここでは、場面が日本に移され、登場人物の名前も日本化されている。この佐藤芝峰訳が、出版されたのは1905年で『ヴイルヘルム・テル』については、すでにいくつもの翻訳が先行していた。しかも、佐藤芝峰訳の序文で大町桂月は、この作品が「われ曾て学課として読みたる書」だと記していおり、外国語の授業テキストとして『ヴイルヘルム・テル』が用いられていたらしい。テル伝説がある程度まで有名になっていいたからこそ、西洋の事情に十分には通じていないもっと広い層の読者を期待して、佐藤芝峰訳のように極端に日本化した翻訳が登場したと思われる。2.グルム童話の和訳については、『おおかみと七ひきのこやぎ』が明治20年(呉文聰訳)と22年(上田萬年訳)とに相次いで挿絵入りで和訳された点に着目し、当時の日本には存在もせず、また知られてもいなかた事象の日本語化と挿絵による視覚化の様相を考察。呉文聰訳では原書の挿絵をまねた西洋風のスタイルをめざしつつも、不十分な模倣となっているのに対し、上田萬年訳では、挿絵が完全に日本化されており、その日本化にあわせて物語の内容そのものも部分的に変更されている点が興味深い。
|
-
[Publications] 高橋輝暁: "「かしこの五月はここのやよひなれば...」-文化の変遷と翻訳類型との相互干渉作用-" 大橋良介編『文化の翻訳可能性』〔人文書院〕. 40-50 (1993)
-
[Publications] 高橋輝暁: "初期ヘルダーリンにおける「自然」と「精神」あるいは「自然の精神」-「調和の女神に捧げる讃歌』から『ヒュペーリオン』へ-" 西川富雄編『自然とその根源力』(ミネルヴァ書房). 125-153 (1993)
-
[Publications] Teruaki Takahashi: "Ubersetzungstypen und ihr kulturelles Interferenzverhaltnis in der Geschichte der japan.Obersetzungen bt.Literatur" Ubersetzen,verstehen,Brucken bauen,hrsg.von A.P.Frank u.a.,Berlin(Erich Schmibt Verlag). 2. 624-643 (1993)