1993 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05610424
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小川 正廣 名古屋大学, 文学部, 助教授 (40127064)
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Keywords | ホメロス / 口承詩 / 文字使用 / 筆写 / 書物の発達 / パピルス文書 / 冊子本 / 識字率 |
Research Abstract |
古代ギリシアの言語文化の伝承形態を考える上で、書物の発達以前の口承の段階は極めて重要であり、5年度はその点から研究を始め、以下のような新たな知見が得られた。 1.まず、ギリシア最古の文学ホメロスの叙事詩に関する口承詩論的研究の最新の成果を収集・整理し、ギリシア初期の文学伝承においては、口誦による創作とオーラルな伝承の技術が、従来考えられていた以上に高度な発達を遂げていたことが明らかになった。その際、平成4年度に名古屋大学文学部において実施した総合科目授業「物語文学の比較口承詩論的研究」<国文・仏文・西洋古典合同>の学際的な討論の成果を利用できたことも有意義であった。 2.次に初期ギリシアにおける文字使用について調査した結果、文学伝承においては口承から筆写への移行のプロセスは単純ではなく、むしろ二つの方法の相互作用の期間が長く続いたものと思われる。 3.さらに書物の発達と変遷に関して、まず現存のパピルス文書と古代から中世にわたる冊子本に関する研究書等の資料を収集し、それらを分類・検討しながら、研究の動向と問題点を全体的に整理した。さらに初期および古典期のギリシア社会における識字率と読書の普及、ギリシア最古の書物、パピルス製巻き物本の製造・形態・書写方法・保存法・読み方等の問題を調査したが、そうした点の考察は来年度も継続して行なう予定である。 4.問題点としては、パピルス文献に関するファクシミリおよびカタログ等の資料が、絶版であったり高額のゆえに十分入手できなかったことである。またラテン語写本のカタログ等の資料についても、同様の問題が生じた。こうした点については、新たな情報・資料収集の方法を開発する必要性を感じている。
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[Publications] 小川正廣: "ウェルギリウス評価の変遷-古代から現代まで-" 名古屋大学文学部研究論集. 115. 215-233 (1993)
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[Publications] 小川正廣: "岡先生とラテン文学" 西洋古典論集. 11(掲載予定). (1994)
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[Publications] 小川正廣: "ウェルギリウス研究-ローマ詩人の創造-" 京都大学学術出版会, 600 (1994)