1994 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05610424
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小川 正廣 名古屋大学, 文学部, 助教授 (40127064)
|
Keywords | 口承 / 文字使用 / 書物 / パピルス / ギリシァ文化 / 巻本 / 冊子本 / 書体 |
Research Abstract |
西洋古代世界の言語文化の伝承形態に関して、前年度(5年度)は主に口承(オーラル・トランスミッション)の役割と実態を検討したが、今年度(6年度)は文字使用と書物の機能と発達に重点を移しながら研究を進めた。その際得られた新たな知見、および問題点をまとめると以下の点が挙げられる。(1)古代ギリシァでは、紀元前5世紀から書物(パピルス本)の生産と流通が行なわれていたが、しかし古典期の文化創造の担い手である作家は、おおよそ文字媒体を通じて一般大衆に働きかけうる可能性については多くを期待しなかったと考えられる。このことは、文学のみならず、歴史、哲学の分野についても言える。文字使用に大きく依存しないことがギリシァ文化の活力の源の一つであり、紀元前4世紀後半から文字文化が以前より広範に普及するに伴い、いずれの分野においても批評意識は発達したが創造的な精神は衰え、文字文化は限定された受容主体を対象とするようになった。(2)しかし文字教育をいっそう普及させて、文化の活力を回復する動きが、紀元前3世紀以降のヘレニズム時代とローマ時代において現れた。この時代でもやはり朗読などの口承的手段が一定の役割を果たしたが、当時のパピルス本には多くの読者を考慮した文章表記上のさまざまな工夫が見られ、また文字形態についても読みやすさという要求に応じる変化が認められる。 (3)文字文化の発達を考える上で、宗教の果たした役割を無視することができない。とくにローマ時代において書物の形態が巻本から冊子型に変化した原因の一つとして、キリスト教の聖典の発達と普及が挙げられる。ただし書物の形態変化によって聖書がどの程度大衆化したのかという点は、なお検討を要する問題である。(4)冊子本の詳しい研究と書体変化の考察については、これまで入手しえた資料の量に限界があり、今後引き続き新たな資料を収集する方法の開発を必要とする。
|
Research Products
(4 results)
-
[Publications] 小川正廣: "ウェルギリウス評価の変遷-古代から現代まで-" 名古屋大学文学部研究論集. 115. 215-233 (1993)
-
[Publications] 小川正廣: "岡先生とラテン文学" 西洋古典論集. 11. 15-23 (1994)
-
[Publications] 小川正廣: "「西洋の父」ウェルギリウス" 地中海学会月報. 178(掲載予定). (1995)
-
[Publications] 小川正廣: "ウェルギリウス研究-ローマ詩人の創造-" 京都大学学術出版会, 600 (1994)