Research Abstract |
カゲロウ類やトビケラ類を中心とした日本産の水生昆虫類について,本研究ではユーラシア大陸東岸など日本周辺地域との比較検討も含め,シノニムなどを整理し,信頼性の高い種レベルでの分類学的チェックリストを作成することを第一の目的とした.この点については,ロシア沿海州地域との研究協力の進展,各地の博物館,研究機関に所蔵されている標本の検討などに加え,現地調査も実施することができ,当初の目的を達成しつつある.また,トビケラ類の一部についてはチェックリストを公表した(Ito et al.,1993;Nozaki et al.1994). 分類学を中心とした検討に併せて,生態情報,地理的分布などの,生態・生物地理に関する基礎的情報を収集・整理することを,第2の目的とした.この点については,研究協力者による情報提供,あるいは現地での生態分布の調査や摂食生態の研究により,かなりの情報を収集・整理できた.それらをもとに,トビケラ,カゲロウ,カワゲラ類といった,河川底生動物の主要なメンバーについて,分類,生態,水環境指標性の3点を中心としたノートをまとめ,報告書に収載した.これは,分類系統研究のみならず,生態学の研究者にとっても,重要な情報源となり,河川生物群集の多様性評価,群集の構造と機能の理解といった基礎生態学の足掛りとなる.また,応用的な研究分野としては,『多自然型川づくり』,『河川水辺の国勢調査』,あるいは『水域環境の生物的モニタリング』の,河川環境管理の基礎的な資料としても活用されることを期待している. ハエ目については,日本では最近の記録のなかったハネカ幼虫などを再発見して,その形態と生態を記録した.これに加えて,山地河川と平地河川に生息するユスリカ幼虫の分類研究を行い,日本未記録の属も含めて,幼虫の分類研究を実施した.この成果にいては,亜科レベルの簡易検索法も含めて報告書に収載した. 生態を中心にした研究としては,自然度の高い山地渓流における底生生物群集の食物連鎖の実態を明らかにする研究を実施し,調査・研究方法の開発も含めて成果をあげた.断片的な食性分析にどどまっていた食物連鎖関係を,一例ではあるが,具体的な食物網として明らかにした.この成果についても,報告書に収載した.
|