Research Abstract |
今年度は,近畿地方東部(紀伊半島東部),東海地方西部(静岡県西部から愛知県東北部),中部地方南部(長野県天竜川流域及び木曾川流域),北陸地方北部にかけての地域でヒメカンアオイ(広義)の集団サンプリングを行ない,開花期の調査や花の各付属器官の質的及び量的形質の解析を進め,各地域集団ごとに比較を進めてきた。これまでの調査により,ヒメカンアオイの地理的変異性の実態がかなり明瞭に捉えられてきた。この一群は花の形態,特にその大きさ,花柱付属突起の形及び長さ,がく筒内での花柱の位置,などにかなりの変異性を示すものの,いくつかの地理的なまとまりを認めることができるようである。それらは,(ア)紀伊半島東南部に見られる型-花が小さく鐘形,花柱付属突起が細長く(幅が狭い)伸びる,(イ)紀伊半島中部から北陸にかけて見られる型-花がやや大きく短い筒形,花柱付属突起が太く,しかもがく筒からやや突出する傾向にある,(ウ)愛知県西北部,岐阜県東部から長野県南部にかねてみられる型-花が小さく筒形,花柱付属突起が上述2型ほど細長く伸びず,またがく片ががく筒に比べて短い,(エ)静岡県西部から愛知県東部に見られる型-花が鐘型で,花柱付属突起ががく筒入り口付近にまで達し,しかも,12月にはすでに開花するものである。一般にヒメカンアオイは2月から3月にかけて開花すると報告されているが,このような花期のずれは,分類群としてのまとまりを考えていくうえでも重要と思われる。来年度は近畿地方西部から四国北部にかけての地域,ならびに前年度不十分な地域での調査を進め,広分布種ヒメカンアオイの地理的変異性の全貌を把握するとともに,これまでの分類指標型質の評価を行ない,調査より認められた地理的まとまりに基づいて既存の分類群の再検討を進めていく。
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