Research Abstract |
ヒトの掌蹠に見られる皮膚紋理は変異は,種々の先天異常の診断に役立っている.本研究の目的は,実験動物モデルとして,マウス掌蹠の標準的な形態とその発生過程を記載し,遺伝的あるいは環境的因子によって,その形態がどのように乱されるかを明らかにすることである.昨年度の研究で明らかにされた正常像を規準として,本年度は遺伝的あるいは環境的な因子によって,その形態がどのように乱されるかを明らかにした.当教室で系統維持している変異種メロメリア(meromelia)マウスでは,指パッド,キャタピラ-パッドが消失し,毛包に置換されている所見から,掌側の一部が背側化していることが明らかとなった.また,慈恵医大形成外科学教室より供与された変異種ハンマートウ(hammer-toe)マウスでは,キャタピラ-パッドの減形成から,掌側構造の低形成が屈指の成因であることが示唆され,後肢V指外側の過剰指パッドと指間パッドの存在から,多指も加わっていることが明らかになった.環境因子の影響を見るために、妊娠Jcl:lCRマウス(膣栓発見=妊娠0日)に,(1)5-フルオロウラシル:妊娠10日より12日まで,半日間隔で10,20,30mg/kg,腹腔内1回,(2)レチノイン酸:妊娠10日より12日まで,半日間隔で10,20,40,80mg/kg,経口1回,(3)アセタゾールアミド:妊娠9.5,10.0,10.5日,500,1000mg/kg,経口計3回,(4)メトキシ酢酸:妊娠10日より12日まで,半日間隔で0.32,0.64,0.96ml/kg,経口1回,を投与し,妊娠18日に胎仔を取り出して,掌蹠皮膚紋理を観察した.その結果,これらの処置により,パッドの過形成,減形成,分裂,変位など,種々の異常が誘発されること,異常のパターンには時期特異性,因子特異性,量反応関係が見られること,指列異常誘発閾値より低い投与量でもパッド異常が誘発されることが明らかとなり,掌蹠皮膚紋理の観察が遺伝性異常や環境化学物質の発生毒性の検出指標として意義があることが示された.
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