Research Abstract |
PETによる頭頂側頭葉のブドウ糖代謝率と脳血流,脳酸素代謝率の解離現象は,われわれが昨年J.Nucl Medに報告して以来,他の施設でも追試が行われ,ほぼ同様の結論が得られている.われわれは,この原因を脳内のミトコンドリアによる好気性代謝とサイトゾールの嫌気性解糖の差異と推測し,当初はミトコンドリアに取り込まれるC-11標識酢酸による研究をめざしていたが,サイクロトロンの障害によって充分量の酢酸の合成ができなかったため,これを断念した. その代わり,動物において,アセチルコリンの合成を阻害するブロモピルビン酸をアセチルコリン合成細胞群(すなわち,前大脳基底核,人ではマイネルト核に相当する)に注入し,人のアルツハイマー病様の状態をラット脳に作成し,大脳皮質の血流と代謝について検討を加え,その後直接脳を取り出して,解糖に関連する酵素活性を測定した. 結論としては,前大脳基底核からのアセチルコリンの供給が減少すると,大脳皮質の神経細胞のブドウ糖代謝が減少する.さらに,コンパートメント解析を行うとブドウ糖のリン酸化に相当するステップに障害があることが証明された.しかも,コンパートメント解析のリン酸化と直接測定したヘキソキナーゼの活性には有意な相関が見られた.また,同時に測定した脳血流量には明らかな減少が見られず,血流と代謝に解離が見られた.これは,人のアルツハイマー病での酸素代謝とブドウ糖代謝の解離に類似した現象である.すなわち,酸素代謝はその計算過程で脳血流の影響を大きく受けるので,血流とブドウ糖代謝に解離があれば,それは,酸素代謝とブドウ糖代謝の解離に影響を与えている可能性がある.しかし,施設の制限から,動物で酸素代謝が測定できてはいないので,大脳皮質でのアセチルコリンの減少が酸素代謝とブドウ糖代謝の解離の原因と断定はできない. 以上の点について,論文を3編投稿中,ならびに,投稿準備中である.
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