Research Abstract |
P-glycoprotein(pgp)は細胞膜に存在し,ATPを介して細胞毒性物質を細胞外へ排出するポンプ機能を有し,癌細胞においてはこのpgpが薬剤耐性に大きく関わっているものと考えられる。大腸粘膜にはこのpgpは広く存在すると考えられるが,大腸癌組織での発現に関してはいまだ不明な点も少なくない。本研究では正常大腸粘膜および癌組織,転移部位におけるpgpの発現を免疫組織染色法により検討するとともに,一部の症例に関してはWestern blot法を用いてpgpの発現量を定量することを試みた。1年4カ月間に当科で切除された大腸癌,大腸腺腫症例67例,145病変(正常大腸粘膜67,大腸癌65,腺腫5,転移リンパ節5,肝転移病巣2)の新鮮凍結切片を作製し,抗ヒトMDR1遺伝子産物(JSB-1)を一次抗体として免疫組織染色を行った。正常大腸粘膜67,腺腫5病変全例にpgpの発現を認めた。一方,大腸癌65病変では高分化型腺癌で18/39(46.2%),中分化型腺癌で3/21(14.3%),低分化型腺癌では0/4(0%)と分化度が低くなるほどpgpの発現率は低下した。転移リンパ節5,肝転移病巣2病変ではpgpの発現は認められなかった。大腸癌の進行度との関係では,DukesA,Bで12/31(38.7%),DukesC,Dでは11/35(31.4%)と大腸癌の進行度とpgpの発現の間には相関はみられなかった。大腸癌症例の23例につい癌組織におけるpgpの発現と,c-erbB-2蛋白,p53蛋白,PCNA発現の関連性をWestern blot法を用いて検討した。PCNAの発現はは大腸癌の進行度とよく相関したが,c-erbB-2蛋白,p53蛋白の発現は癌の進行度とは無関係であった。また,癌組織におけるpgpの発現と,c-erbB-2蛋白,p53蛋白,PCNA発現の間には関連性を見いだせなかった。以上の結果より本研究において,大腸では正常粘膜で発現しているpgpは細胞の癌化や低分化への分化の過程で失われるのではないかと考えられた。以上の結果は消化器癌の発生と進展第6巻p277-p282,1994年に投稿し,掲載された。
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