1994 Fiscal Year Annual Research Report
パルス状単色陽電子ビームによるHOPG表面上の陽電子寿命の研究
Project/Area Number |
05740269
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
東 俊行 東京大学, 教養学部, 助手 (70212529)
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Keywords | 陽電子消滅 / HOPG / パルス状単色陽電子ビーム / 陽電子表面状態 |
Research Abstract |
「金属表面で観測されているような固体表面に束縛された状態が、グラファイトなどの炭素材料表面でも存在するのか?」という点を明らかにするのが本研究の主な目的であった。従来グラファイト微粒子中では、バルク中の寿命成分以外に長寿命成分をもつことから、陽電子の表面束縛状態の存在が示唆されていた。一方DC単色陽電子ビームをHOPGに入射させ、陽電子-電子対運動量成分を測定すると、陽電子を表面上に止めたときとバルク内に止めた時とでは差異が認められないことが 最近報告されていた。このように、表面状態の有無は、判然としない状況にあった。本研究では、最近工業技術院電総研で開発されたパルス式エネルギー可変の陽電子ビームを用いて、今まで不可能であったHOPG表面上での陽電子寿命スペクトルの直接的測定を行い、はっきりと陽電子が表面に止まっていることが明かな条件下で、陽電子が表面の電子密度を反映した特異的な寿命をもつかどうかを検証した。 結果としてはHOPG表面上に陽電子を打ち込んだ場合の陽電子寿命がバルク中での寿命より長くなるという、陽電子の表面束縛状態の存在を示唆する実験結果を得た。また、これに引き続き、表面温度が上昇したとき陽電子がこの束縛状態からどのような機構で離脱するのかを調べるために、陽電子寿命の試料温度依存性を測定した。陽電子打ち込みエネルギーは1keVに固定し、温度を室温から350℃まで変化させると、表面束縛状態を示す長寿命成分が温度上昇とともに減少する一方、Ps(ポジトロニウム)に起因する非常に長い寿命成分(tau>1mus)が現れ、これが可逆的に起こることを確認した。これから、表面近傍に打ち込んだときの長寿命成分が、表面近傍の欠陥等に束縛されたものではなく表面束縛状態であることを確認した。 これら結果をすべて説明する機構として次のように考えている。陽電子の表面状態は確かに存在する。しかし温度を上昇させたときには表面状態から電子を捕まえてポジトロニウムとして放出されるのではなく、陽電子が再びバルクへ戻ってしまい、ポシトロニウムは常にバルクから直接電子を捕まえて出ている。このとき運動量エネルギー保存関係を満たすために、フォノンが関係しているので温度を上昇させるとより放出され易くなる。このような特殊な事情は、HOPGの陽電子仕事関数が正で大きいことと、電子の特徴的なバンド構造に起因していると現時点では考えている。
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