1993 Fiscal Year Annual Research Report
表面増強ラマン散乱(SERS)の電子的発現機構に関する理論的研究
Project/Area Number |
05740359
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中井 浩巳 京都大学, 工学部, 助手 (00243056)
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Keywords | SERS / TDHF法 / 分極率 |
Research Abstract |
表面増強ラマン散乱(SERS)とは、特定の金属表面上で吸着分子のラマン強度が通常の10^6倍も大きくなる現象である。本研究では、このSERSの電子的発現機構を量子化学的なアプローチにより解明することを目指した。 (1)遷移金属表面に吸着したCO,NO分子の電子状態:SERSの発現機構は、表面-分子間の相互作用と密接な関係があり、吸着分子の基底状態及び励起状態の電子構造が反映されると考えられる。そこで本研究では、遷移金属Ag,Pt表面に吸着したCO(下),NO(下)分子に対し、クラスターモデルを用いてHF/SE-CI法あるいはSAC/SAC-CI法によりその基底状態及び励起状態の電子構造を調べた。その結果、Ag_2,Pt_2表面にCO,NO分子が吸着している場合、クラスターの二電子励起状態と相互作用していることが示された。Ag_2表面ではその二電子励起状態はかなり不安定であり、結果として吸着安定化は得られないことがわかった。一方、Pt_2表面ではCO,NO分子ともに吸着安定化がみられた。そして、自由なCO,NO分子の最低励起エネルギーがそれぞれ8.5,5.5eV程度であるのに対し、Pt_2表面に吸着した系では2.5,1.8eVとかなり小さくなっていることが示された。これは、SERSの発現機構の一つと考えられている共鳴効果を容易にしていることを表している。一方、吸着系の電荷はCO,NOがそれぞれ+0.27,+0.31と比較的小さく、電磁気的効果は小さいことを示唆している。 (2)吸着分子のラマン散乱強度の計算:気相及び吸着CO分子のラマン散乱強度を、時間依存ハートリーフォック(TDHF)法を用いて計算した。その結果、気相CO分子では入射光が1eVから6eVに変化するにしたがって次第に増加することが示された。しかし、7eV以上では計算が発散し、この方法では解が得られなかった。同様に、吸着CO分子の場合は1eVですでに発散が起こった。そこで本研究では、中間状態の寿命に対応する項を加えた計算をし、その寿命がゼロである極限値を用いる方法を提案した。
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