1993 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05740522
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
川窪 伸光 鹿児島大学, 教育学部, 助教授 (60204690)
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Keywords | ノマアザミ / 性表現 / 進化 / 雌性雌雄異株 / 自家不和合性 / 訪花昆虫 |
Research Abstract |
ノマアザミの性表現の進化の機構解明の第一歩として,同種の性表現を花器形態・性機能の両面から把握し,また花粉媒介昆虫相を解析した結果,少なくとも以下の3点が明らかになった. 1.花器形態の解析の結果,花器形態は,両性株ではアザミ属に普通に見られる形質状態であるのに対し,雌株では,雄ずいが退化的状態であることが判明した.また雌株の退化的雄ずいは,しばしば花筒内での位置において変異を示すことも明らかとなった.このような退化的雄ずいの位置的な変異は,これまでにまったく報告がない現象であり,顕花植物の性表現の進化を考える上で興味深い現象といえる.雌株において必要なくなった退化的雄ずいへの資源配分をより節約する進化的傾向が把握できたのかもしれない. 2.両性株の性的機能を把握するために行われた,交配実験の結果,両性株は自家不和合性を備え,雌株と同様に他の両性株からの花粉の供給を受けなければ結実できないことが判明した(自家不和合性の両性株と雌株で構成される雌性雌雄異株).この事実は,雌株の進化的維持機構を考えるうえで重要な暗示を与えてくれる.つまり,両性株における近交弱勢が,雌株を維持しているとは考えることができず,他の生態的因子や遺伝子因子の関与が予想できた 3.花粉媒体昆虫相の解析の結果,ニホンミツバチなどのハナバチ種6種,タイワンオオヒラタアブなどのなどのアブ類2種,ホウジャクなどの鱗翅類5種の訪花が,両性株と雌株の両方に確認された.これらの昆虫は,もっぱら花蜜の採餌に訪れたので,花粉の生産のない雌株にも十分な訪花が認められ,また昆虫の体表に付着した花粉によって受粉は問題なく行われていた.したがって,今回確認されたような多様な訪花昆虫相が,雌株の進化的維持の必要条件であると考えられた. ●これらの結果は,すでに論文化し,Annals of Botanyへ投稿中である.
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