1993 Fiscal Year Annual Research Report
マングローブ域に生息する菌類の収集とその特性の解明
Project/Area Number |
05760256
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Research Institution | Institute for Fermentation, Osaka |
Principal Investigator |
中桐 昭 財団法人発酵研究所, 真菌研究室, 研究員 (70198050)
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Keywords | マングローブ / 真菌類 / 汽水 |
Research Abstract |
マングローブ域に生息する菌類を収集するために、沖縄県西表島、石垣島、沖縄本島のマングローブ林から、マングローブ落葉および腐朽材を採集した。落葉は洗浄処理後、培養基に載せ、出現した菌を分離した。これまでに、腐生性の鞭毛菌HalophytophthoraおよびPythium属菌を約20株、担子菌酵母Rhodosporidium属菌2株を分離した。これらの中には未知種も含まれていた。既知のHalophytophthora属菌種(H.vesicula,H.spinosa var.lobata,H.exoprolifera,H.kandeliae)の培養株をもちいて培養性状を調査したところ、菌糸生長および無性生殖はいずれの菌種においても広範囲の塩分濃度で良好であり、特に汽水環境(塩分濃度10-30%。S)を至適条件とすること、また、菌種によっては遊走子の形成や遊走子嚢からの遊走子の放出が塩分濃度の急激な変動や水温の変動などによって誘導されることが明らかとなった。マングローブ汽水域では潮の干満にともなって水温や塩分濃度が激しく変動するが、そこに生息するこれらの鞭毛菌類はそのような特殊な環境に適応し、さらには生活環を回す上で積極的に利用していることが明らかになってきた。マングローブの腐朽材は湿室法で培養し、出現した菌を分離、観察しており、現在も継続して調査中である。この方法では、主に子嚢菌、不完全菌および担子菌が出現した。そのうち子嚢菌ハロスフェリア科のAniptodera属の未知種については、子嚢および子嚢胞子に興味ある性状が観察された。本菌の子嚢先端には陸生子嚢菌類にみられるリング構造がみられるが、この構造はすでに胞子の射出機能を失っていること、また、子嚢胞子の両端には海生子嚢菌にみられる膜状の付属物が備わっているが、この付属物は汽水中(塩分濃度3-10%。S)でのみ胞子の分散に有効に機能することが明らかになった。このようにマングローブ域という汽水環境に生息する菌類の中に陸生菌と海生菌の中間的な性状を備えるものが見いだされたことは、海生菌類の進化適応を探る上で重要と考える。本菌については上述のような性状を記した記載論文を投稿中である。 今後は、菌株の同定分類を進め、新分類群の記載論文の作成と培養菌株の登録保存を行なう。また、培養株を用いて性状調査を行ないマングローブ菌類の特性理解のための研究を継続して行なう予定である。
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