1993 Fiscal Year Annual Research Report
リン内殻吸収によって生じた酵母染色体DNA二重鎖切断の生成効率と修復されやすさ
Project/Area Number |
05780398
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Research Institution | National Laboratory for High Energy Physics |
Principal Investigator |
宇佐美 徳子 高エネルギー物理学研究所, 放射光実験施設, 助手 (60232807)
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Keywords | 放射線生物学 / 単色軟X線 / シンクロトロン放射 / DNA二重鎖切断 / パルスフィールドゲル電気泳動 / 酵母 / 内殻吸収 / DNA修復 |
Research Abstract |
これまで酵母菌を用いた実験より,DNA中のリン原子が直接エネルギーを吸収する過程により修復されにくい致死損傷が生じていることが示唆される結果を得た.本研究では,リン原子の光吸収により生じた二重鎖切断の酵母菌の修復過程による修復効率を調べた.二重鎖切断修復欠損株および野生株を用い,両者の二重鎖切断の生成収率の比を二重鎖切断の修復効率とした.照射にはリン酸基に起因する吸収ピークである2153eVおよび対照として2147eVの2種類の単色軟X線を用いた.もしリンK殻吸収によって「修復されやすさ」の異なる二重鎖切断が生じているならば,2つのエネルギーでの鎖切断修復効率は異なるはずである.二重鎖切断の定量はパルスフィールドゲル電気泳動を用いた.泳動後のDNAの定量は,従来はネガフィルムの黒化度をデンシトメータで測定する方法をとっていたが,今回は染色したゲルをCCDカメラで撮影し画像解析する方法を採用し,露出時間を1/100程度に短縮できた. 二重鎖切断欠損株では,どちらのエネルギーでも1致死事象あたり約2個の二重鎖切断が生じていた.しかし予想に反し,修復効率はリンK殻吸収の有無で差はなく,リンの光吸収によって生じた二重鎖切断は他の元素の光吸収により生じた二重鎖切断と同じ効率で修復されていた.したがって致死損傷から示唆された修復されにくい損傷は,今回の検出法で検出可能な二重鎖切断ではないことが明らかになった.この方法では無傷のまま残ったDNA量を基にして切断数を求めているため,照射後DNA複製が起こらないことを前提としている.しかし二重鎖切断の修復効率が致死損傷の修復効率に比べ小さいことから,DNA複製前には修復過程が完全に行なわれていないと思われ,この段階ではリンの光吸収によって生じた損傷の「修復されやすさ」の違いは検出できないと考えられる. の成果は1994年4月に英国で開催される第18回グレイ会議で口頭発表を行なうことになっている.
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[Publications] Usami,N.: "Quantitative Measurement of DNA Double Strand Breaks Produced by Phosphorus Photoabsorption in Yeast Cells by Using Pulse Field Gel Electrophoresis.(abstract)" Journal of Radiation Research. 34. 111 (1993)
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[Publications] Kobayashi,K.: "Performance of the Irradiation Apparatus for Radiation Biology Studies at Beamline 27 in the Photon Factory.(abstract)" Journal of Radiation Research. 34. 110 (1993)
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[Publications] Usami,N.: "Repair of DNA Double Strand Breaks Produced by Phosphorus Photoabsorption in Yeast Cells.(abstract)" Journal of Radiation Research. 34. 396 (1993)
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[Publications] 宇佐美 徳子: "細胞のDNA修復機能をプローブとしたリンK殻吸収によって生じる分子損傷の性質の研究" SR科学技術情報. 3(9). 9-16 (1993)