1993 Fiscal Year Annual Research Report
民衆文学からみた,異民族間抗争がロシア民衆にもたらした精神的・文化的変容の研究
Project/Area Number |
05801068
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
坂内 徳明 一橋大学, 社会学部, 教授 (00126369)
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Keywords | ロシア的 / 民族意識 / ロシア・ナショナリズム / 民俗学史 / 民族性 / 民衆文学 / ロシア民俗文化 |
Research Abstract |
本研究の目的は、いわゆる民族間抗争の問題が有する重要性と緊急性に踏まえながら、その問題を状況分析によらずに、その問題が発生したルーツとも呼ぶべき地点に溯り、民衆文学ないしは口承文学を具体的な素材としてその問題の意味と基本構造を解明することにあった。この目的のために本研究者は18世紀後半から19世紀前半という転換期のロシア社会と文化を取りあげて、この時期の民衆の精神的・文化的変容の実体を分析することを本研究全体の基本的な作業とした。本研究は本年と次年度の2ヶ年にわたるものであるが、本年度における具体的な論点となったのは以下の点である。 1)18世紀半ばまでの「民衆文学」の全体像、2)その作品におけるロシアと非ロシア、民衆におけるそれらにたいする意識、3)18世紀後半におけるロシア・ナショナリズム、民族意識、4)18世紀後半におけるロシア「民族誌」の試みとロシア民俗学・「民衆文学研究」の発生 本年度にあっては、これらの点を概観して次年度の研究続行のためのさらに具体的な問題点の発見につとめた。したがって現時点においてはまだ最終的な結論にまで到達しているわけでなく、一応の仮説的段階での確認でしかないが、18世紀後半・末から19世紀初頭にかけての時期に、いまだ誕生してまもないインテリゲンツィヤの営為の中で、ロシア的なるもの・ロシア民族性・民衆性、またはロシア民衆文化といった観念体系のごく大まかながらも確実な枠組みが創造されていったのではないか、と考えられている。この点はさらに次年の平成6年度の研究によって、よりいっそうの解明が必要であると思われる。
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