1994 Fiscal Year Annual Research Report
先天性無痛無汗症患者における神経成長因子受容体遺伝子の解析
Project/Area Number |
05807212
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
犬童 康弘 熊本大学, 医学部・附属病院, 助手 (40244131)
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Keywords | 先天性無痛無汗症 / 神経成長因子 / 神経成長因子受容体 |
Research Abstract |
先天性無痛無汗症は温覚と痛覚、さらに発汗機能が欠損している常染色体劣性遺伝の疾患である。 これまで、その原因は不明であった。この疾患の患者について、神経成長因子(NGF)および低親和性神経成長因子受容体(LNGFR)の遺伝子の翻訳領域について、すべての塩基配列を調べてみたが異常は認められなかった。そこで、さらに高親和性神経成長因子受容体(TrkA)遺伝子について調べてみた。正常コントロールおよび患者細胞からmRNAを抽出し、逆転写酵素によりcDNAへ変換後、PCR法によりTrkAcDNAの翻訳領域をいくつかの断片に分けて増幅してみた。正常コントロール細胞からは、目的のサイズのDNA断片が得られ、この塩基配列を調べたところ報告されたTrkA遺伝子の配列と同じであった。しかしながら、同じ条件で、患者からcDNAの増幅を試みたところ、翻訳領域の3'端のTrkA蛋白質のチロシンキナーゼドメインをコードする領域が増幅されなかった。さらに、この患者において、翻訳領域の5'端から数えて約1/3の塩基配列近傍の133bpが欠失したcDNAを確認できた。この欠失はcDNAのフレームシフトを起こし、このため、正常のTrkA蛋白質をコードできないことが示唆された。同様な方法で、両親のcDNAを解析したところ、父親はこの異常遺伝子と正常遺伝子の両者をもつヘテロ接合体であることが判明した。一方、母親はこれとは異なる変異をもつことが予想された。この患者はTrkA遺伝子の異常について複合ヘテロ接合体であると考えられる。 さらに、別の患者についても解析を行い、TrkA遺伝子の異常を示唆する結果が得られた。 以上より、これまで、原因不明であった先天性無痛無汗症の、少なくとも一部の症例は、TrkA遺伝子の異常によりおこることを明らかにすることができた。今後、他の患者についても解析を進めていきたい。将来的には、遺伝子診断やこれに基づく出生前診断、さらに原因に基づく治療法を検討する道が拓けたと考えられる。
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