1994 Fiscal Year Annual Research Report
記憶の認知的加齢に関する研究-高齢者の方略使用の速さと柔軟性に注目して-
Project/Area Number |
05851019
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 忠 東京大学, 教育学部, 助手 (40235966)
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Keywords | 記憶 / 加齢 / 認知的方略 / 自由再生 / 場所法 / 老人心理学 / 高齢者 / 柔軟性 |
Research Abstract |
本研究の目的は、高齢者が訓練によって高い記憶能力を獲得した段階での記憶方略使用の特性を、20代の若者との比較において調べることであった。老人にとっては1回のテストでも負担の大きな記憶課題を、数回のセッションにわたって訓練する最初の試みであったが、思うように実験が進まず、老人が高い記憶能力を身につけるところまでにもっていくこと自体が困難であった。科学研究費によって購入したノート型コンピュータ上に記憶刺激(単語)をひとつひとつ提示した。1セット20個の単語からなるものを3セット与えた。刺激提示の間隔をコントロールして(1〜15秒)、提示後自由再生させた。まず大学生5名(20〜27歳)を対象にして5セッションの訓練実験を行なった。最初のセッションで各被験者のベースラインを測り、2回目のセッションから記憶力を高めるための方略(「場所法(method of loci)」)を教示した。これは、与えられた単語のイメージを、たとえば自分の家から最寄りの駅まで歩く道の途中にあるものと次々に連合させる記憶方略である。大学生はほぼ1回のセッションでマスターし、3セッション目からは記憶成績が向上した。老人については4名に協力したもらった。うち1名は体調の都合で途中で調査を打ち切った。残り3名(69〜77歳)には同じく2セッション目で場所法を教示した。3名ともこの方略自体をマスターすることができ、刺激の提示時間がある程度長ければ10〜15秒)、3セッションの訓練によって若者のベースラインに近いレベルの成績をあげることができた。しかし提示時間が短い場合(1〜5秒)は、訓練後でも成績が伸びなかった。高齢者の記憶能力を高めることは、思ったほど容易ではなく、所定の目的を達成することはできなかったが、刺激の提示時間が長くて適切なイメージを生成することができれば、高齢者でもそれは記憶として頭の中に定着し、成績の向上につながることがわかった。今後老人の記憶研究を進めていく際の足がかりになるものと思う。
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