1993 Fiscal Year Annual Research Report
広島県豊島の漁業者の家族と相互援助的養育コミュニティに関する歴史的・文化的研究
Project/Area Number |
05851023
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
澤田 英三 広島大学, 教育学部, 助手 (00215914)
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Keywords | 親子関係 / 養育コミュニティ / 世代間教育 / 生涯発達 / 参加観察 / 文化心理学 |
Research Abstract |
広島県豊田郡豊浜町豊島の漁業者の多くは、夫婦で漁に出て年間の大半を実子と離れて暮らしてきた。近年ではこのような漁業者も少なくなったが、親子の関係が物理的に希薄であっても子どもが育つという相互援助的な養育コミュニティが長年存在してきた。本研究では、このように特殊な家族関係を成立させているコミュニティの歴史的・文化的背景に焦点を当て、面接および生活の中への参加観察を通して、コミュニティの特徴を明らかにすることを目的とした。 写真や物、記録などの歴史的資料の収集と、それらを回想の手がかりとした面接の結果、次のようなコミュニティの特徴が明らかになった。1)この漁業のコミュニティには、大きくは乳幼児期・学童期・青年期・成人期・壮年期・老年期の発達段階が存在していた。2)子どもの主たる養育者は乳幼児期は実親、学童期は祖父母、青年期は他人というように段階によって変遷していた。3)世代間教育のうち特に青年期の教育関係は特徴的で、多感な青年に対しては年齢的に近い成人期の他人が青年の心情を理解し活動できる場(青年宿)を提供していた。4)各段階はそれぞれある程度完結したサブカルチャーを保持しており、同世代内での縦の教育関係も存在していた。5)このような社会的教育・養育関係は、親戚・仲人親子兄弟・近所・講・仕事仲間など、多層的な人間関係の網の目の上に成り立っていた。また、日常生活への参加観察を通して、6)過去のコミュニティの社会システムのほとんどは昭和中期以降姿を消しているが、その心性は歴史的に現在まで流れていることが明らかになった。このように、豊島では親子が物理的に離れていても子どもが育ちうる豊かな社会的関係や文化的慣例が子どもの発達段階に応じて組織されていた。
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