1993 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀前半フランスにおける法的責任論の知識社会学的研究
Project/Area Number |
05852001
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Research Institution | Kyoto Gakuen University |
Principal Investigator |
波多野 敏 京都学園大学, 法学部, 助教授 (70218486)
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Keywords | 19世紀フランス / 刑事責任 / 法医学 |
Research Abstract |
本年度は、フランス革命の初期に人権宣言の影響下で制定された1791年刑事法典と、ナポレオン体制下で制定された1810年刑法典の「議会議事録」等の立法資料等の調査、お呼び1820年代なかばから起こった、モノマニ-患者の刑事責任をめぐる論争にかんする『一般医学雑誌』『公衆衛生学年報』などに掲載された精神科医の論文、『裁判新報』の記事などの諸資料の調査をおこなった。この結果、以下のことが確認された。1791年、1810年の両刑法典とも犯罪者を合理的な功利計算をする人間として把握しており、合理主義的な犯罪抑止論を基礎に組み立てられている。この論理をもってすれば、判断力のない精神病者を処罰することは許されず、1810年刑法典の64条では行為時に心神喪失状態にあった時には重罪も軽罪も成立しないことが定められた。モノマニ-論争では、「モノマニ-」と呼ばれる精神病が、この「心神喪失」に該当するかどうかが争われた。この論争は、新しく形成されつつあった精神医学の専門家が、「専門医」でなければ診断できない精神病が存在することを主張し、精神鑑定というかたちで司法装置のなかに確固たる地位をきづこうとしたものであり、新興の精神科医という専門家集団が、法律家という伝統的な専門家集団に論争を挑むことによって、その社会的地位を向上させようとしたものだと見ることができる。しかしながら、この論争においては、精神医学者の博愛主義的傾向は1791年刑法典の背後にあった博愛手記と通じるものがあり、むしろ法律家の一部に社会防衛論的な考え方があらわれているが、モノマニ-論争の段階では、合理主義的刑罰論に代わる刑罰論は提出されておらず、刑罰論の基本的枠組みには大きな変化は生じていない。以上の諸点は、『京都学園法学』に連載する論文「モノマニ-と刑事責任」で論じられる予定である。
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