1993 Fiscal Year Annual Research Report
カニ類における人工受精技術の開発および卵の一斉孵化メカニズムに関する基礎研究
Project/Area Number |
05856033
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
李 大雄 北海道大学, 水産学部, 助手 (60210811)
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Keywords | カニ / モクズガニ / 孵化 / 抱卵 / 腹部扇動 / 人工受精 |
Research Abstract |
1)抱卵してから孵化まで雌ガニの腹部の扇動の変化: この観察実験は合計3匹の抱卵雌を用いて行われた。卵は水温20℃で孵化まで約23日雌ガニの腹部に抱卵された。この間に雌ガニの腹部は頻繁に上下の扇動を行った。時間当りの扇動回数は初日の50-100回から日数の増加とともに徐々に増えていき、約16日目に最高の1200-1500回まで達してその後孵化直前までそのまま維持された。ここまでの扇動は抱卵扇動と呼ばれた。この抱卵扇動は少なくとも卵への酸素供給と洗浄の意味を有すると考えている。 孵化直前3時間前から3匹の雌ガニ共に腹部の扇動回数の変化が同様の特異的なパターンを示した。この扇動は孵化扇動と呼ばれた。孵化扇動パターンの後半は抱卵扇動より3倍以上の激しさで扇動し、それと共にゾエアが大量に孵化した。 2)孵化扇動の意味: 5個体の自然抱卵雌における卵の孵化時間は平均で3.5時間であった。それに対し、孵化扇動の影響をなくして孵化扇動の意味を知るため、5個体の抱卵雌において孵化予定日より一日前に腹肢と一緒に摘出した卵塊を緩い水流の中で人工培養した結果、平均孵化時間は6時間であった。両者の間では有為差があったが、大差ではかった。つまり孵化扇動はそれほど孵化の時間を集中させる要因ではないとわかった。簡単にいえば孵化扇動は一斉孵化をもたらした要因ではないと考えた。ここで、孵化扇動の意味は孵化したゾエアを母体から離すことではないかと考えた。一斉孵化の要因は孵化時の特異な孵化扇動ではなく孵化前の抱卵期間にあると推測した。つまり、抱卵期間に卵に対する“均一的な保護・培養"が問題だと考えられる。 3)孵化扇動を誘発する因子: 孵化予定日の相違のある2匹の抱卵ガニを同じ水槽に収容し、一方の雌の卵が先に孵化する時に、片方の雌の腹部の扇動状態を観察した結果(このような実験が2回行われた)、その雌は同時に孵化扇動を行った。また、孵化直前の自然抱卵ガニから卵塊を摘出し、500c.c.の滅菌海水に収容して孵化させた。その孵化海水を抱卵中の雌ガニが収容された水槽に流し込み、雌ガニ腹部の反応を観察した結果、やはり孵化扇動が行われた。それらのことから孵化扇動を誘発する因子は卵にあると示唆した。
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