2005 Fiscal Year Annual Research Report
安定同位体比を用いた富栄養海域における無機態窒素の挙動と低次生産機構の解明
Project/Area Number |
05J02312
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
杉本 亮 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1) (00533316)
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Keywords | 富栄養化 / 低次生産 / 安定同位体比 / 栄養塩 / 植物プランクトン |
Research Abstract |
近年、内湾域の環境悪化の原因として内部生産の影響が重要視されている.内湾域には,河川・外海・湾内での再生産と起源の異なる栄養塩が分布しており,これらが内部生産に与える影響を明らかにすることは,陸域からの栄養塩の負荷削減に対しても非常に重要な意味を持つ.そこで、植物プランクトンの増殖に最も重要な栄養塩の一つである硝酸態窒素の起源とその一次生産への影響を解明するために,平成17年6月30日から7月1日かけて三重県科学技術振興センターの観測船「あさま」に乗船し,伊勢湾全域および伊勢湾沖で観測を行った.また6月29日に湾奥部に注ぐ木曽三川において,表層水の採水および水温・塩分の測定を行った.観測の結果,現在までに以下のようなことが明らかになった.(1)硝酸態窒素の窒素安定同位体比と水塊の指標(塩分や水温)を用いて,内湾域の硝酸態窒素の起源を定量的に区別することが可能である.(2)湾奥部上層には9割以上の割合で、河川系の硝酸態窒素が分布している.この硝酸態窒素は湾奥部に高濃度のクロロフィル極大を形成させる.そのため、クロロフィル極大よりも外側では、硝酸態窒素が枯渇した状態となり、貧栄養な上層水が湾外にまで運ばれる.(3)中下層には,湾内で再生産された硝酸態窒素と湾外から流入してきた硝酸態窒素が混在している.中層クロロフィル極大が形成されるあたりでは,再生産の寄与が5割,外海の寄与が5割ほどと見積もられた.特に,再生産された硝酸に比べ,外海から流入してきた硝酸態窒素は圧倒的に低濃度ながら,効率的に中層に運ばれていることが明らかになった.(4)懸濁態有機物の窒素安定同位体比からも,中層クロロフィル極大は再生産と外海から供給される硝酸態窒素を取り込んでいることが示唆された.この結果は,2006年度日本海洋学会春期大会(要旨集p.189)にて講演を行った.
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