2006 Fiscal Year Annual Research Report
安定同位体比を用いた富栄養海域における無機態窒素の挙動と低次生産機構の解明
Project/Area Number |
05J02312
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
杉本 亮 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1) (00533316)
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Keywords | 富栄養化 / 植物プランクトン / 栄養塩 / 安定同位体比 / 同位体分別 / 硝化 / 脱窒 / 伊勢湾 |
Research Abstract |
近年,内湾域の環境悪化の原因として植物プランクトンの過剰な増殖が重要視されている.植物プランクトンの増殖を引き起こす栄養塩は,河川・外海・湾内での再生産などから供給される.これら起源の異なる栄養塩が内部生産に与える影響を明らかにすることは,陸域からの栄養塩の負荷削減に対しても重要な意味を持つ.本研究では,植物プランクトンの増殖に必須の栄養塩の一つである無機態窒素に着目し,伊勢湾をモデル海域として研究を行っている.昨年度は各起源の窒素動態を把握することを目的として研究を行った.以下にその成果を示す. 1.伊勢湾において,貧酸素水塊の形成に伴う硝醜態窒素の窒素安定同位体比の時間変化を調べた.躍層以深の硝酸の窒素同位体比は酸素濃度の減少およびアンモニア酸化に伴って-8.5‰(5月)から+8.5‰(7月)まで変化したj5月の値が低かったのは,水柱での硝化によるものと考えられる.また,水柱での硝化に伴う見かけ上の同位体効果は-24.5‰と見積もられた.貧酸素水塊中の硝酸の同位体比は堆種物中で生じる脱窒の同位体効果(-1.5‰)が小さいため,水柱での硝化を反映した値を示すことが示唆された. 2.陸棚海域から伊勢湾へと供給される硝酸の起源と挙動を調べた.陸棚海域から伊勢湾への硝酸の供給機構は黒潮流路により大きく変化する.伊勢湾沖の海域を黒潮が蛇行すると,陸棚域上層の比較的新しく作られた低濃度の硝酸が伊勢湾へ供給される.この硝酸は,伊勢湾起源の有機物と陸棚起源の有機物が分解されてできているものと考えられる.一方,黒潮が直進するときは,陸棚域下層から硝酸濃度の高い下層冷水が伊勢湾へ供給される.この下層の硝酸は陸棚堆種物中での脱窒の影響を強く受けた比較的古い硝酸であり,主に陸棚海域で生産した有機物が分解されることで生成しているものと推察される.
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