2006 Fiscal Year Annual Research Report
中後期ビザンツ帝国における政治・宗教・アイデンティティ
Project/Area Number |
05J03370
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
橋川 裕之 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 西洋中世史 / ビザンティン帝国 / 正教会 / 修道制 / 人文主義 / 教会改革 / リヨン教会合同 / フィリオクェ論争 |
Research Abstract |
1)コンスタンティノープル総主教アタナシオス1世(在位1289-93年、1303-09年)は、13世紀末から14世紀初頭にかけてビザンツ教会の長を二度にわたって務め、教会と社会の広範な改革を試みたことで知られる修道士聖人である。本人が認めた書簡を含め、関係する史料は比較的多く残されているものの、今日に至るまで十分な研究蓄積を欠くこの人物について、主に教会政治史的な観点から考察を進め、彼の改革を同時代の政治・社会的コンテクストに即して理解することを試みた。この考察の主要な成果は、平成18年12月に京都大学大学院文学研究科に提出、受理された課程博士論文「コンスタンティノープル総主教アタナシオスと末期ビザンツ帝国の危機」(平成19年3月、学位認定)である。また、この論文の一部、アタナシオスの遍歴の特徴と意義を分析した「はじめに」第2節と、アタナシオスの在位期にテッサロニケ府主教を務めた二人のラウラ修道院長をプロソポグラフィーの視角から考察した「第4章」第1・2節は、それぞれ「総主教アタナシオスと二人のラウラ修道院長--聖山と教会を結ぶ道」と「総主教アタナシオスの遍歴時代--13世紀ビザンツにおける修道士と聖山」の表題で学術雑誌『西洋史学』と『オリエント』に掲載された。 2)近年、ビザンツ学界において神学や信仰をめぐる文化史的問題が大きな注目を集めている。それらはビザンツ人の宗教的迷妄ないし文化的後進性の象徴としてではなく、当時の政治状況や宗教的心性と密接に関連する歴史的問題として認識されるようになった。こうした趨勢を受け、東西教会間(ローマ・カトリック教会とビザンツの正教会)で行われたフィリオクェ論争および西欧の政治・軍事的発展がビザンツ社会に及ぼした諸影響を一次史料に即して考察し、その成果を日本西洋史学会大会と洛北史学会大会において口頭で発表した(それぞれの表題は「13世紀ビザンツにおける神学とアイデンティティ--フィリオクェ論争の再燃をめぐって」と「魂を穢す平和--ビザンツの信仰とリヨン教会合同」)。 3)ビザンツ帝国の民族・宗教的多元性を理解することを目的に、ビザンツ初期に帝国の内外で活動したアルメニア人の政治・軍事的役割を考察し(平成17年度より継続)、その成果を'The Armenian Element in Early Byzantium : A Prosopographical Perspective'と題する英語論文として、京都大学大学院文学研究科の欧文論集Humaniora Kiotoensia : On the Centenary of Kyoto Humanitiesに発表した。
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Research Products
(3 results)