2005 Fiscal Year Annual Research Report
高山樗牛を中心とする明治期の「浪漫主義」に関する思想史的研究
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05J07150
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
長尾 宗典 筑波大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 高山樗牛 / 美学 / 浪漫主義 / 姉崎正治 / 岡倉天心 / 『稿本日本帝国美術略史』 |
Research Abstract |
本課題の研究目的は、高山樗牛の「美学」思想の特質を明らかにすることにより、それが彼の生きた明治中・後期の時代状況のなかで占めた位置を、「浪漫主義」の思想運動との関わりのなかで解明し、近代日本思想史における「浪漫主義」思想の意義を考察することにある。近年では、近代に対する批判的な反応を具体化したという観点から、保田與重郎など、昭和期の日本浪曼派の活動の再評価が進められているが、日本浪曼派同人たちが自らの先達として位置づけた明治期の「浪漫主義」者の思想に関する内在的研究は、まだ十分に行なわれているとはいいがたい。高山樗牛の思想の研究は、上述の研究動向を補完し、近代日本の「浪漫主義」の思想史的意味を究明する上で重要な位置を占める。なぜなら高山は、作家ではなく美学者として、西洋の「浪漫主義」の理論を自覚的に取り入れて自らの思想を構築していった人物だからである。 以上の目的のもと、本年度においては、従来の研究で取り上げられることの少なかった高山樗牛の「日本美術史未定稿」の著作を主たる検討対象とし、周辺史料の発掘を含めて考察を加えた。またその際、日本美術史の分野で先駆的な業績を残した岡倉覚三(天心)の美術史像、及び明治33年(1900)のパリ万国博覧会に出品するために編纂された『稿本日本帝国美術略史』との比較に留意し、検討を行なった。その結果、高山の美術史像においては、「美術」をあくまで個人の精神的な充足、個性の解放に資するものと捉える観点が際立ち、「美術」における日本民族の伝統を歎美し、国民教化の道具とする同時代の国家側の美術史構想に対する抵抗の論理が読み取れることが明らかとなった。これらの成果は雑誌論文としてまとめ、個々に発表した。 今後は美術史の分野における高山の業績を踏まえ、同時代における「浪漫主義」の思想の全体像を明らかにしていく必要があり、引き続き多角的な観点から考察を加えていくことを課題としたい。
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Research Products
(2 results)