2005 Fiscal Year Annual Research Report
社会思想史上における「共苦」概念の諸形態・影響・可能性の追究
Project/Area Number |
05J10942
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
紺野 茂樹 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 倫理学 / 動物の解放 / 美徳 / 歴史 / 記憶の政治学 |
Research Abstract |
平成十七年度においてまず第一に明らかにしたのは、共苦倫理学(Mitleidsethik)における、能動的に共苦する(mitleiden)存在者と、受動的に共苦される、現に苦しんでいる存在者の間を繋ぐ、相互主観的な媒介としての共苦(Mitleid)の構造ではなく、能動的に共苦する存在者の主観内部の構造の究明である。その際にモデルとしたのがニーチェと、彼に連なる無神論的実存主義の伝統である。と言うのも、表面的には共苦を、小市民的な日常生活に閉じ込められた狭隘な「同情(Mitleid(en))」だと断じて、痛烈に批判していたニーチェのうちには、集合的アイデンティティや実定宗教に拠らずに、直接全人類の連帯へと連なろうとするような強い個人の自己陶冶の作法として、共苦を概念的に練り上げようとする苦闘の痕跡が見い出されるからである。報告者は、このニーチェの萌芽的洞察を、ホルクハイマー等によって更に社会的・歴史的に具体化して、今日における美徳ないし卓越性(virtus)としての共苦の在り方を解明した。 それに続いて取り組んだのは、共苦を報告者自身がこれまでしてきたように、共時的に、すなわち、民族や宗教の相違ばかりではなく、最終的には人間と人間以外の動物の相違さえも超えた、普遍的な連帯の原理としてだけではなく、通時的に、すなわち、過去の歴史の無辜の犠牲者の蒙った、もはや決して補償不可能な被害を、「想起(Anamnesis)」し、「忘れずにいること(Eingedenken)」によって贖う、過去世代との連帯の原理として、すなわち「想起的連帯(anamnetische Solidaritat)」の原理として、定式化することである。これは昨今、国内外において大いに論争の的となっている、「記憶の政治(学)」に、新たな側面から光を投げかけるものである。
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Research Products
(1 results)