1996 Fiscal Year Annual Research Report
インド亜大陸における民族・宗教紛争の生成と回避のメカニズムの人類学的研究
Project/Area Number |
06041021
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松井 健 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (50109063)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三尾 稔 東洋英和女子学院大学, 社会科学部, 専任講師 (50242029)
関根 康正 筑波大学, 歴史人類学系, 教授 (40108197)
永ノ尾 信悟 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (40140959)
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Keywords | 宗教紛争 / 民族紛争 / インド亜大陸 / イスラーム / ヒンドゥー主義 / 復古主義 / 暴力 / 外部世界 |
Research Abstract |
松井はパキスタン西部バル-チスターン州マクラーン地方において、三尾はインド西部ラージャスターン州において、永ノ尾は北東インドにおける下層カースト民について、まだ関根はカースト制の強固な南インドにおいて、それまでの調査を踏まえて、民族・宗教紛争の生成と回避のメカニズムについて研究を進めた。三次に及ぶ調査によって、四つの地域のそれぞれの特色が明らかになった。とくにイスラームの二つの宗派の混在する地域(パキスタン・マクラーン)、イスラームとヒンドゥーの混在する地域(インド・ラージャスターン州)、実質的にヒンドゥーのみの地域(北東、南インド)によって、変化がある。また、インド亜大陸に広くみられる社会階層制度(インド側のカースト制あるいはジャーティ・システム)にも、大きな地域差がある。しかし、これらの条件の変異にかかわらず、おおよそ以下のような民族・宗教紛争の生成のプロセスの特質を明らかにすることができた。(1)民族・宗教紛争のきっかけや原因になるような、小さな反目や紛争は、日常的に数多く存在している。しかし、通常は、大きな暴力的紛争に発展することはごく稀である。(2)日常的に生起している小さな紛争や反目が、大きな宗教・民族紛争に発展するきっかけのひとつは、外部からの介入である。この際には、公共的なメディアから口こみ、うわさなど、コミュニケーションがその特性に応じて用いられ、重要な役割を演じる。(3)民族・宗教紛争の拡大・激化の背景には、その地域の経済的たちおくれ、行政からの孤立、劣悪な教育・文化組織、住民の不満と不公正感、などがある。このため、小さな紛争は、住民の反抗や欲求不満のはけ口の可能性となっている。(4)以上のような条件のために、一端、宗教・民族紛争が拡大、激化すると、それは、住民にとっては、不平不満の鬱憤したものを爆発させる場に、容易に変質する。
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Research Products
(20 results)
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[Publications] 松井健: "インド北西辺境の<サガ>" 月刊百科. 384. 19-21 (1994)
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[Publications] 松井健: "分泌=排泄物の文化地理学-オードリク-ル再検-" 国立歴史民俗博物館研究報告. 61. 171-185 (1995)
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[Publications] 松井健: "イスラームと自然環境" 竹下政孝(編著)『講座イスラーム世界4 イスラームの思考回路』悠思社. 365-399 (1995)
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[Publications] 松井健: "インダス河流域の部族社会における婚外性関係の『偽造』" UP. 275. 13-17 (1995)
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[Publications] 松井健: "イスラーム文化の蔭のナツメヤシの酒" 山本紀夫・吉田集而(編著)『酒づくりの民族誌』八坂書房. 185-194 (1995)
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[Publications] 永ノ尾信悟: "The Nagapancaml as described in the Puranas and its treatment in the Dharmanibandhas" 南アジア研究. 6. 1-29 (1994)
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[Publications] 永ノ尾信悟: "Analysis of the Ritual Structure" Y.Ikari,ed.,A Study of the Nilamata : Aspects of Hinduism in Ancient Kashmir Institute for Research in the Humanities,Kyoto University. (1994)
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[Publications] 永ノ尾信悟: "文献学者とフィールドワーク" 民博通信. 67. 11-16 (1995)
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[Publications] 永ノ尾信悟: "酒をつくる花マフア-インド" 山本紀夫・吉田集而(編著)『酒づくりの民族誌』八坂書房. 195-202 (1995)
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[Publications] 永ノ尾信悟: "古代インドの酒スラ-" 山本紀夫・吉田集而(編著)『酒づくりの民族誌』八坂書房. 203-216 (1995)
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[Publications] 永ノ尾信悟: "ヒンドゥー教年中儀礼の形成-ティティと神格の結び付きをめぐって-" 石井溥(編著)『南アジア・東南アジアにおける宗教・儀礼・社会』東京外国語大学Monumenta Serindica. 26. 1-17 (1995)
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[Publications] 関根康正: "清めと儀礼-タミルの成女式-" 辛島昇(編著)『インド入門IIドラヴィダの世界』東京大学出版会. 111-123 (1994)
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[Publications] 関根康正: "『オリエンタリズム』とインド社会人類学への試論" 東京都立大学社会人類学会(編)『社会人類学年報』. 20. 27-61 (1994)
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[Publications] 関根康正: "暴力・政治・宗教-マドラス市の祭礼ビナ-ヤガ・チャトゥルティーの現在からの考察-" 杉本良男(編著)『宗教・民族・伝統』南山大学人類学研究所叢書V. 179-213 (1994)
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[Publications] 関根康正: "『正統』文化の変容とハリジャンの生活戦略" 石井溥(編著)『南アジア・東南アジアにおける宗教・儀礼・社会』東京外国語大学Monumenta Serindica26. 113-139 (1995)
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[Publications] 関根康正: "Rethinking Ambiguity of Hindu Women" Senri Ethnological Studies. (近刊). (1997)
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[Publications] 三尾稔: "ラージャスターンにおける儀礼演劇の社会的構成-トゥイバル・グループ・ビールの舞踏演劇を中心として-" 『南アジア研究』. 6. 30-55 (1994)
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[Publications] 三尾稔: "女神祭祀の変容-インド・ラジャースターン州メワール地方の事例から-" 『民族学研究』. 58(4). 334-355 (1994)
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[Publications] 松井健: "自然の文化人類学" 東京大学出版会(近刊), (1997)
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[Publications] 関根康正: "ケガレの人類学" 東京大学出版会, 363 (1995)