Research Abstract |
生体に許容範囲を越えた負荷がかかり,骨,筋,靭帯,腱などに種々の障害が発生する.この場合の“許容範囲を超えた負荷"とは単に外力の大きさ(amplitude)を意味するのではなく,速度(velocity),頻度(frequency)によっても異なった障害が発生する.そこで本研究ではスポーツなどで最も受傷しやすい靭帯,腱に焦点を当て靭帯の力学的特性について生体力学の立場から検討した. 家兎膝蓋骨-膝蓋腱-脛骨複合体を作製し,両端を骨セメントで固定した.これらをPBS水浴下に以下の4種類のモードで引っ張り試験を行い,粘弾性特性を調べた.A群:生食ガ-ゼに包んで室温で約30分放置した後,PBS水浴下に初期張力5Nとなる変位で応力緩和曲線を求めた.B群:水浴下に前負荷INを与えた状態で30分放置した後,初期張力5Nとなる変位で応力緩和曲線を求めた.C群:水浴下に前負荷INを与えた状態で2分間だけ放置した後初期張力5Nとなる変位で応力緩和曲線を求めた.D群:INを初回peak loadとし,その約50%の変位の範囲で,毎分20mmの速度でcyclic testを2分間行った後,初期張力5Nとなる変位で応力緩和曲線を求めた.その結果,各群の緩和時間はA群より順に平均439.4秒,705.6秒,622.2秒,651.8秒であった.緩和時間はB群,C群,D群,A群の順に大きく,A群と他の群との間には有意差をに認めた.実験はA群からD群までの4つの異なるpreconditioningを設定し,いずれも5Nという同じ大きさの初期張力を与えてその応力緩和を計測したが,何らかの前負荷を与えたB,C,D群と,前負荷を与えず30分間,生食ガ-ゼで包んで弛緩させた状態から初期張力を与えたA群との間に有意の差を認めた.このことはA群では過飽和のfree waterを含んでおり,初期張力を与えた瞬間よりこの水が拡散するためにエネルギーの損失を生じ,他の群とは異なった履歴をもったものと考えられた. この結果は日本臨床バイオメカニクス学会誌15巻331-334,1994に公表した.
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