1994 Fiscal Year Annual Research Report
遷移状態における酵素複合体の構造解析-グルタチオン合成酵素の構造変化と酵素機能の発現機構-
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06240230
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小田 順一 京都大学, 化学研究所, 教授 (50027041)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平竹 潤 京都大学, 化学研究所, 助手 (80199075)
加藤 博章 京都大学, 化学研究所, 助手 (90204487)
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Keywords | 遷移状態 / 遷移状態アナログ / 酵素機能 / グルタチオン合成酵素 / X線結晶解析 |
Research Abstract |
グルタチオン合成酵素は、ATPのγ-リン酸を転移させてγグルタミルシステインのC末端カルボキシル基を活性化しアシルリン酸中間体としたのち、そこへグリシンを求核攻撃させることによって反応を触媒していると考えられる。そこで、グリシンが攻撃する段階の遷移状態に注目し、その安定アナログとして、四面体型のリン酸エステルをC端末側に持つホスフィネート1を立体選択的に合成した。定常状態の速度論的な解析を行って阻害活性を調べたところ、化合物1は本酵素に対して著しい阻害活性を示し、阻害定数K_iは21nMに達した。また、阻害は時間とともに徐々に進行し、しかもATPの共存下でのみ強力な阻害が起こることから、化合物1がそのままの形で酵素を阻害するのではなく、酵素の活性中心内で酵素自身の作用によってホスフィネート部分(P-O^-)にリン酸化を受け、実際の遷移状態と極めて類似した分子種を生じるという、一種のmechanism based inactivationが起こっているものと推定した。このことを確かめるために化合物1とATPの共存下に酵素を結晶化し、得られた複合体結晶をX線結晶解析に供した。結晶解析の結果、予想通り、ホスフィネートがリン酸化された分子種とADPとが酵素の活性中心に強固に結合している様子が確認された。リン酸化されたホスフィネートは実際の遷移状態に極めて類似しているため、その分子種と結合している酵素の構造も実際の遷移状態における構造と極めて似ているはずである。事実、これまで酵素単独の結晶構造解析では見られなかった表面近くのフレキシブルな2つのループが活性中心を覆う形で固定されている様子が観測され、不安定な反応中間体を水による攻撃から保護し効率良くペプチド形成を進行させる酵素の巧妙な仕組みの一端が明らかになった。また、ホスホリル基と相互作用しているアルギニン残基を同定することができ、この残基こそが四面体型の遷移状態を安定化し、反応を触媒している活性残基の一つであることが示された。
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