1994 Fiscal Year Annual Research Report
琵琶湖における活性中心としての水温躍層-生物・化学・物理相互作用-
Project/Area Number |
06304048
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中西 正己 京都大学, 生態学研究センター, 助教授 (60025434)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
津田 良平 近畿大学, 農学部, 教授 (30088182)
熊谷 道夫 京都大学, 滋賀県琵琶湖研究所, 専門研究員 (40234512)
大久保 賢治 京都大学, 防災研究所, 助手 (50135612)
杉山 雅人 京都大学, 総合人間学部, 助教授 (10179179)
和田 英太郎 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (40013578)
|
Keywords | 水温躍層 / 琵琶湖 / 植物プランクトン / 栄養塩 / 生物生産 / 分解 / 再溶出 / PH |
Research Abstract |
1993年の琵琶湖の夏は、記録的な冷夏・長雨であったのに対し、1994年は、一転して、今世紀始まって以来の猛暑と渇水に見舞われた。地球規模でのこの気候変動は琵琶湖の自然を大きく変化させた。1993年夏の琵琶湖国際共同研究(BITEX)、続いて、本年夏(1994年)の本総合研究にて、世界に先駆けて実施された、物理・化学・生物分野の緊密な連携のもとでの集中観測結果は、琵琶湖の水環境を考えるうえでの最重要部分である「活性中心」としての水温躍層動態の劇的な変化を我々に垣間見せてくれた。この間、得られた新しい知見として、1993年の降雨は、河川からの水温躍層直上への栄養塩の供給を増やし、表層での生物生産を活発にしたのに対し、本年は、その供給が絶たれたため、表層での生物活性は少なく、透明度が十数メートルと、ここ数十年の観測では見られないほどに向上した。その一方で、水温躍層直下での生物生産の異常な増加を、詳細な多地点・鉛直・連続観察(高密度連続観測)により発見した。この原因の一つは、躍層付近まで光が到達するようになったためと考えられる。次に、プランクトンが利用する栄養塩であるが、従来の琵琶湖における知見では、栄養塩は河川からの流入により表層に供給されるため、水温躍層より上での植物プランクトンの発生のみが指摘されていた。しかし、その表層への栄養塩供給が絶たれた場合、新たに発見された躍層直下の植物プランクトンへの栄養塩の供給プロセスが、大きな問題点としてクローズアップされた。硝酸態窒素については、底泥でのバクテリアによる分解で無機化・再溶出するため水温躍層直下で高濃度であり、これを植物プランクトンが利用できる深度まで光は届いた場合これを利用したと考えられるが、リン酸態リンについては、琵琶湖の場合、底泥表面で生成する水酸化鉄への吸着により、水温躍層下でも低濃度であり、硝酸態窒素とは別のルートでの供給過程が必要となる。このリン酸態リンの問題について、我々の詳細な観測結果から、沿岸で巻き上げられた底泥表面の水酸化鉄を含んだ土壌粒子が水平輸送され、pHの変化により、リン酸態リンの再溶出が起こるのではないかと考えている。以上のような、湖の生物・化学・物理全般にわたる相互作用として、従来指摘されていなかった新たな機構についての知見がもたらされ、今年度の本観測で、さらに詳細な実験を計画中である。
|
Research Products
(8 results)
-
[Publications] Urabe.J.,Nakanishi,M.and Kawahata,K.: "Contribution of metazoan plankton to the cycling of nitrogen and phosphorus in Lake Biwa" Limnol.Oceanogr.40. 232-241 (1995)
-
[Publications] Yoshioka,T.,Wada,E.and Hayashi,H.: "A stable icotope study on seasoual food web dynamics in a cutrophic lake" Ecology. 75. 835-846 (1994)
-
[Publications] 大久保賢治.村木嘉雄,森川浩: "琵琶湖における水温・濁度の変動機構" 京大防災研究所年報. 37. 405-419 (1994)
-
[Publications] Sugiyama,M.and Hori,T.: "Geochemical behavior of barium in the vicinity of a M_<11>O_2/M_n^<2+> redox front formed in a eutrophic lake" Jpn.J.Limnol. 55. 27-37 (1994)
-
[Publications] 堀智孝,杉山裕子,杉山雅人: "水酸化鉄によるカルボン酸並びにその数縁化合物の捕集と構造化学的体系化" 分析化学. 43. 101-106 (1994)
-
[Publications] 津田良平: "光・画像計測" 海洋. 26.
-
[Publications] Kumagai,M.et al.: "The PHysical Processes of Lake Biwa,Japan(分担執筆)" American Geophysical Union,Washington, 227 (1995)
-
[Publications] Tsuda,R.and Nakanishi,M: "The Physical Processes of Lake Bewa,Japan(分担執筆)" American Geophysical Union,Washington, 227 (1995)