Research Abstract |
ヒトHa-Rasの変異体(約80種)について,GAP,Raf-1(全長およびRas結合を示す81残基のドメイン)ならびにNF-1との相互作用を解析した.他方,PC12細胞について,変異体ras遺伝子の誘導発現による形態変化およびMAPキナーゼの活性化を解析した.その結果,p120GAPに非感受性でNF-1には感受性の変異体,Raf-1に結合するが活性化できない(またはRaf-1,B-Rafなどを区別する)変異体,MAPキナーゼの活性化ができが形態変化を誘導できない変異体などを,新たに得ることができた.このように,多くの変異体の中から,特定のシグナル伝達機能のみを保持しているもの,あるいは,欠いているものを検索するという目的をほぼ達成した.それらの中から,I21A,Y32F,P34G,T35Sの変異体について,^<13>C-^<15>N標識を行い,多次元NMR法を駆使して解析した.その結果,P34G(Raf-1結合活性があるがGAPには非感受性)およびT35S(Raf-1結合活性は無いがGAPには感受性)とについて,GTP結合型Rasに特徴的な「Ec領域」のコンホメーション多形性が消失して一形になっており,さらに,P34GとT35Sとでは互いに異なったコンホメーションであることがわかった.I21AおよびY32F(MAPキナーゼを活性化するが形態変化は誘導しない)は,野生型と同じ多形性を示し,RasのI21およびY32が,MAPキナーゼ活性化以外のシグナル伝達経路でのターゲットと相互作用することが示された.他方,GTP結合型の野生型Rasの多次元NMR解析により,Raf-1のRas結合ドメインとの結合にともなって一形に固定されることがわかった.これらの結果を総合し,Es領域における多形の一つ一つが,異なるターゲットとの相互作用を担うことが結論された.
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