1996 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06453198
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
鈴木 啓助 信州大学, 理学部, 助教授 (60145662)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
幸島 司郎 東京工業大学, 理学部, 助教授 (60183802)
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Keywords | 冬季降水 / 積雪 / 融雪水 / 冬季季節風 / 海塩 / 対流混合層 / 藻類 / 微生物活動 |
Research Abstract |
当該研究課題に関する、新潟県・十日町、福島県・田島、ネパール・ヒマラヤ、日本アルプスにおける調査の結果明らかになったことの要点を以下にまとめる。 新潟県・十日町におけ冬季降水中のNa^+濃度とMg^<2+>、Cl^-濃度それぞれの比は、海水中の濃度比と良く一致し、これらのイオンのほとんどが海塩を起源とするものであり、冬季降水中に含まれる化学物質の約7割が海塩を起源とするものである。冬型の気圧配置時の大陸からの寒気の吹き出しによる降水では、輪島での対流混合層が高く、十日町における降水中のNa^+濃度も高くなる。 福島県・田島の林冠環境の異なる3地点(コナラ林、アカマツ林、林外)において、積雪中の化学物質濃度および生物量の変化を調べた。積雪中のPO_4^<3->濃度は、アカマツ林内とコナラ林内で林外よりも高いことから、積雪中のPO_4^<3->は有機物の二次生成物と考えられる。顕微鏡観察によると、林内の積雪中には細菌・カビ・藻類の存在が認められるが、積雪初期には低密度で、融雪最盛期に増加する。積雪中のクロロフィルaとフェオフィチンaの濃度は、アカマツ林内においてコナラ林、林外よりも高い。また、アカマツ林内およびコナラ林内のクロロフィルa、融雪最盛期に増加し、藻類が増加することを示している。 福島県・田島の温暖積雪流域において、3水年にわたり渓流水質を継続的に調査した。降水量の極大は夏季に観測されるが、流出高は融雪期に最大となる。融雪時には、渓流水中のHCO_3^-濃度が減少し、Cl^-、NO_3^-、SO_4^<2->濃度は増加する。そのために、渓流水のpHが一時的に低下する。融雪期には比較的長い期間pH低下が持続する。夏季の渓流水中では、陰イオンでHCO_3^-が優先するが、融雪時には低下し、Cl^-+NO_3^-+SO_4^<2->の割合が多くなる。 ネパール・ヒマラヤの氷河の消耗域の氷上融水系には、ユスリカ類の水性昆虫とソコミジンコ類の甲殻類を確認した。これらの食物となっているのは、氷上で増殖している藻類やバクテリア類であることが考えられる。藻類やバクテリアの繁殖は、モンスーン期に盛んになり、氷河上を汚れ層が覆うような状況になる。この汚れ層は、氷河表面のアルベドを低下させ、ひいては氷河の融解を促進させる。 日本アルプスの蔵の助雪渓においても、融解期には雪渓表面に藻類やバクテリアが繁殖し、アルベドを低下させている。
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[Publications] Suzuki Keisuke: "Chemical dynamics in a boreal forest snowpack during the snowmelt season" Publication of the International Association of Hydrological Sciences. 223. 313-322 (1994)
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[Publications] 鈴木啓助: "十日町市における冬季降水中の酸性物質濃度変動" 李刊地理学(東北地理学会誌). 46. 161-172 (1994)
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[Publications] 鈴木啓助: "冬季降水中の海塩起源物質濃度と気象条件" 雪氷(日本雪氷学会誌). 56. 233-241 (1994)
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[Publications] Ozeki Toshihiro: "Observations of sun crust formation" Proceedings of Internationa Snow Science Workshop. 1994. 2-13 (1994)
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[Publications] Suzuki Keisuke: "Relation of Na^+ concentration and δ^<18> O in winter precipitation with weather conditions" Geophysical Research Letters. 22. 591-594 (1995)
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[Publications] Suzuki Keisuke: "Hydrochemical study of snow meltwater and snow cover" Publication of the International Association of Hydrological Sciences. 228. 107-114 (1995)
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[Publications] Suzuki Keisuke: "Concentration changes of MSA and major ions in Arctic aerosols during polar sunrise" Proceedings of the NIPR Symposium on Polar Meteorology and Glaciology. 9. 160-168 (1995)
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[Publications] 鈴木啓助: "融雪時における渓流水のpH低下" 水文・水資源学会誌. 8. 468-473 (1995)
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[Publications] Kobayashi Daiji: "Diurnal variations in streamflow and water quality during the summer dry season" Hydrological Processes. 9. 833-841 (1995)
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[Publications] 鈴木啓助: "温暖積雪地における渓流水質変動" 地学雑誌(東京地学協会誌). 105. 1-14 (1996)
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[Publications] 鈴木啓助: "生物活動による積雪中の窒素化合物の消費" 雪氷(日本雪氷学会誌). 58. 295-301 (1996)
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[Publications] Kohshima Shiro: "Albedo reduction by biotic impurities on a perennial snow patch in Japan Alps" Publication of the International Association of Hydrological Sciences. 223. 323-330 (1994)
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[Publications] 幸島司郎: "北方域の生態系と環境変動-氷河生態系" 日本生態学会誌. 44. 93-98 (1994)
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[Publications] Goto-Azuma Kumiko: "An ice-core chemistry record from Snofjellafonnna,northwestern Spitsbergen" Annals of Glaciology. 21. 213-218 (1995)
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[Publications] Yoshimura Yoshitaka: "A community of snow algae on a Himalayan glacier : Change of algal biomass and community structure with altitude" Arctic and Alpine Research. 29. 128-139 (1997)
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[Publications] 鈴木啓助: "酸性降水と生態系" 佐々木胤則編「展望21世紀の人と環境」,三共出版. 14-26 (1994)