1995 Fiscal Year Annual Research Report
金コロイドと放射性同位体を組み合わせた深海底生生物のエネルギー摂取に関する研究
Project/Area Number |
06454008
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
白山 義久 東京大学, 海洋研究所, 助教授 (60171055)
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Keywords | 深海生物 / メイオベントス / 金コロイド / エネルギー摂取 / 線虫類 |
Research Abstract |
昨年度の浅海生物を使った予備実験の成果にもとづいて、深海生物を使った本実験を平成6年度末に実施したが、その後の詳細なデータの解析により、予備実験においてエネルギー分散型X線分析装置(EDX)のスペクトル中の金のピークと判断したものが、実際にはエネルギーベルが非常に近い亜鉛のものであり、金の動物体内の濃度はEDXの検出限界以下であることが明らかになった。そこで本年度は研究計画全般を大幅に見直し、金属コロイドを用いた摂食量の測定方法の開発を始めからやり直した。その結果、金コロイドの代りに濃度の高いコロイドが入手できる鉄コロイドを用いた場合、摂食量が精度よく測定できるEDXのスペクトルが得られた。また鉄コロイドの場合、試料の調製に時間がかかる透過電子顕微鏡観察用の超薄切片を作成しなくても、カバーガラスに展開した試料を炭素でコーティングした後に走査電子顕微鏡で分析する簡便な方法でも十分精密に摂食量を測定できることも明らかにすることができた。この新しい方法の開発が完了した時点で、深海生物を採集する機会はすでになかったので、かわりに岩手県大槌湾の粗砂底に棲息する浅海種4種について、新たに開発した方法を用いて摂取量を測定し、水温20度において炭素量換算(μgC day^1)で、Symplocostoma sp.は0.28、Polygastrophora sp.は0.29、Mesacanthion sp.は0.73、Metachromadora sp.は0.15であることが明らかになった。この値は、放射線同位元素で標識した液状有機物をトレーサーに用いて測定された従来の値より大きめであった。従来の方法は、生態系内での有機物の流れに関して単純なモデルを仮定しているため、過少評価になる可能性が指摘されていたが、本研究結果もその可能性を強く示唆するものであった。今後は本研究で開発した測定方法が、より信頼性の高いものとして、小型底生生物の摂食量の測定において広く利用されるだろう。
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