Research Abstract |
幼生の大きさおよび種による温度特性の違いと耐凍性の関係を論ずるために、タテジマフジツボ(Balanus amphitrite)およびミネフジツボ(Balanus rostratus)を材料として、ノウプリウスIあるいはII期幼生の最適凍結条件について検討を行った。実験は,2Mのジメチルスルホキサイド(DMSO)を含む海水を媒液として行った.タテジマフジツボでは,-20℃から-40℃まで冷却した場合,冷却速度にかかわらず,温度の低下にともなって解凍直後の生残率は低下した.この状態の幼生を直ちに解凍せずに,液体窒素中につけて急速凍結し,3日間凍結保存した後,解凍した解凍直後の生残率は,反対に,温度の低下にともなって上昇した.このことから,第2段階の液体窒素浸漬による急速凍結時の生残率は,第1段階の緩慢凍結で到達する温度が低いほど高まるものと考えられた.この現象を,第1段階での緩慢冷却による幼生個体からの脱水がより完全であるほど,第2段階での急速凍結による氷結晶生成が抑えられるため,生残率が高まるものと解釈した.次に,第1段階の緩慢冷却による到達温度を-20℃として,その温度に一定時間保持した後に,液体窒素で急速凍結する実験をおこなったが,保持時間の延長にともなって第2段階での生残率は高まり,上述の解釈の妥当性が確かめられた.液体窒素中に保存後,解凍された幼生の,その後の生残は悪く,いずれの冷却速度・冷却方法でも,48時間以内にそのほとんど死亡したが,一部は生残し,付着個体となった.ミネフジツボでは,付着個体を得ることは出来なかったが,最適凍結条件に関しては,タテジマフジツボと同様の結果が得られた.ミネフジツボで付近個体が得られなかった原因は,タテジマフジツボに比べて,餌料に対する要求が複雑であるためと考えられた.以上により,フジツボ類に関しては,幼生の大きさおよび生息温度域などは,耐凍性に大きな影響を持たないものと考えられた.
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